全般性不安障害の治療
更新日:2023年3月27日
このページについて:全般性不安障害の診療はいくつかのステップに分かれますが、英国のガイドラインに沿って、詳しく説明します。
全般性不安障害の診療はいくつかのステップに分かれます。それぞれ解説していきます。
ステップ1:まずは、全般性不安障害を見逃さず、しっかりと評価して診断することから始まります。全般性不安障害の人は、体に症状が出ることもありますし、健康への不安が強まることも多いので、内科、耳鼻科や整形外科など、精神科・心療内科以外の診療科に受診することがあります。この場合、精神科での専門的な評価を医師から勧めることが必要です。そして、正しく診断した後には、全般性不安障害とはどういうものか、どのような治療方法があるのか説明します。人間は分からないことがあると不安になるものです。不安を解消するためにも、しっかりと説明することが大事です。実際に、しっかりと説明するだけで全般性不安障害の症状が改善すると言われています。説明も治療のうちということですね。
ステップ2:不安を和らげる方法は色々とあります。一つ一つは簡単なことばかりです。自分にあった方法で良いので、やってみることが大切です。ちなみに、病気について説明したり、心理的に楽になる方法を教えたりすることを専門用語で心理教育と言います。
まず、しっかりと休養、休息を取ることです。人間には休養が絶対的に必要なのです。仕事の最中も、時々は休憩が必要です。眠れる方であれば、いつまでも夜更かしせずに床に就くのが大切です。もし眠れないのであれば、椅子の上でリラックスして、ゆったりとしたクラシックの音楽やヒーリング・ミュージックを聞くのも良いと思います。また、目をつむってゆっくりと深呼吸をしたり、瞑想にふけったり(メディテーション)するのも気持ちを落ち着かせる効果があります。疲労が取れたら、ストレス発散のためどこかに遊びに行くのもいいでしょう。心配性な人は、物事を悪い方に考える傾向があります。嫌なこと、辛いことについて考えるよりも、楽しいこと、面白いことについて考える方が心の健康にとっては良いことです。今度の休みにどこかに遊びに行こうと計画するのも良いかもしれません。
考え方を変えたい人は、自分の考えたことを紙に書き出し、他人の書いたものだと思って読んでみるのも一つの方法です。客観的に見ると、自分の考え方が偏っていたり極端だったりすることに気づくものです。それに気づいたら、日頃から考え過ぎないよう注意すると良いと思います。これを専門的に行うと認知行動療法になります。認知行動療法は自分一人でも行うことができるワークブックなどが本屋さんで売っていますので、それを買ってやってみても良いと思います。また、自己啓発本などで自分とは違う考え方について学ぶのも大事かもしれません。
人付き合いも大事です。孤独になると心の健康を損なう可能性が増えます。一人の時間も大切ですが、ずっと一人で生活するのではなく、周囲の人と仲良くするのも大切なことです。友達や職場の同僚、家族など、自分の周りにいる人々を大切にして良好な人間関係を築くことができれば、心の健康を保つことにも役立ちます。
それと、カフェインやアルコール、ニコチンを取りすぎると不安症状が増えたり、眠れなくなったり、朝早く目覚めてしまったりします。取りすぎに注意しましょう。
ステップ3:専門的な精神療法(心理療法)では、認知行動療法などがあります。正式な認知行動療法はしっかりとマニュアル化されていて、十数回にわたるセッションがあります。自分の考え方や行動パターンを見直していく治療法で、全般性不安障害にも効果があります。
精神療法や心理療法だけで改善が難しければ、薬による治療もあります。基本的には、SSRI(selective serotonin reuptake inhibitor:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という脳のセロトニンという神経伝達物質を増やす薬を使います。これは、抗うつ薬の一種で、うつ病(大うつ病)の治療にも使われます。即効性はありませんが、数週間飲み続けると徐々に効果が出てきます。主な副作用は吐き気や眠気ですが、こうした副作用が出ないように、初めは少ない用量で開始し、数週間かけて徐々に用量を増やしていきます。また、10代、20代といった若い人に使うと、衝動的になったり、自殺のリスクが増えることが知られていますので、注意が必要です。SSRIに分類される薬はセルトラリンやパロキセチンなど複数あります。もし、最初に使ったSSRIで効果がなければ、他のSSRIに変えます。もしくは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)というタイプもあり、こちらも全般性不安障害に使うことがあります。なお、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬を中止するときは、いきなり中断するのではなく、少しずつ減らしていきます。というのも、もし急に中断すると離脱症状として、吐き気やめまい、体の震え、発汗、強い不安感などの多様な症状が出てきてしまうからです。減らす場合は勝手に行わず、医師に相談した上で減らすことが大事です。
ベンゾジアゼピン系(よくベンゾなどと略されます)の抗不安薬は、日本ではよく使われますが、イギリスのガイドラインでは初めから使うことは推奨されていません。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、即効性があるのですが、使い始めるとどんどん多くの量を飲みたくなってしまい、薬物乱用にいたることがあります。また、ずっと使っていると依存性が出てきてしまい、やめたくてもやめられなくなります。他にも色々と副作用があるため、なるべく使わない方が良いとされています。どうしても使うのであれば、依存性が出ないように、短い期間だけ使います。もし、初めて精神科や心療内科の病院に行き、いきなりベンゾジアゼピン系の薬が処方されたら、しっかりと医師に説明を求めましょう。
また、抗精神病薬という脳のドパミンを抑える薬が使われることもありますが、これもいきなり最初から使われることはありません。医師から処方されたら、どうして処方したのか、よく説明を聞いた方が良いと思います。
ステップ4:なかなか治らない場合は、再度、しっかりと評価することが大事です。違う診断の可能性も出てきますし、不安症状の原因となるような事柄を見落としている場合も考えられます。
生活環境の中でストレスが強すぎる場合も考えられます。例えば、家庭内で暴力を受けていたり、職場で何らかのハラスメントを受けてたりすると、精神症状が改善しないのは当然です。そのような場合では、環境を変えるために社会的な介入が必要かもしれません。保護的な意味で、入院環境の下に治療をするという方法もあります。
薬を使っている場合は、薬の使い方が適切か、飲み忘れていないかも確認が必要です。ちゃんと使っているのに効果がない場合は、いくつかの薬を組み合わせて効果を高めるという方法もあります。ただし複数の薬を使うと副作用のリスクも上昇するので、注意が必要です。また、認知行動療法と薬物療法を組み合わせるという方法もあります。
自傷行為や自殺企図の危険性など、身体や生命の安全に関わるようなリスクが発生した場合は、入院での治療を考えないといけません。精神科に入院したいと思う人は少ないでしょうが、身体や生命を守ることが最優先になります。
引用文献:
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