社交不安障害の治療
更新日:2023年3月27日
このページについて:社交不安障害の治療として、SSRIという薬や認知行動療法、暴露療法などを紹介します。
社交不安障害の治療は大きく二つに分かれます。薬を使う治療と、使わない治療、すなわち精神療法です。
まずは薬を使う治療から説明します。社交不安障害の治療に勧められている薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬というものです。英語で"Selective Serotonin Reuptake Inhibitor"とつづりますので、頭文字をとってSSRIと略します。
SSRIとは総称であり、薬のグループを指す言葉ですので、実際には何種類ものSSRIが存在します。イギリスのガイドライン(NICE)では、エスシタロプラムとセルトラリンの2種類が推奨されていますが、他にもたくさんあります。日本で正式に社交不安障害の治療薬として承認を得ているSSRIには、エスシタロプラムやパロキセチン、フルボキサミンなどがあります。
このSSRIという薬には脳内のセロトニンという神経伝達物質を増やす作用があります。うつ病の治療に使われる薬ですが、不安障害の治療にも効果があります。社交不安障害だけでなく、パニック障害や全般性不安障害など他のタイプの不安障害の治療にもSSRIが使われています。SSRIは、いきなり有効量を使うのではなく、ゆっくりと数週間かけて有効量まで増やしていくという方法をとります。ゆっくり増やさないと吐き気や眠気といった副作用がかなり強く出てしまうので、徐々に体に慣らし副作用を少なくしているのです。そして、薬を有効量まで増やしてから効果が出るのにさらに数週間かかります。つまり、SSRIに即効性はないということです。効果がしっかりと出てくるのに2-3ヶ月程かかることになります。
もしも、SSRIを2-3ヶ月使っても効果が不十分だった場合、もしくは副作用が強くて続けにくい場合には、他のSSRIに切り替えます。先ほども書いたようにSSRIは何種類もあるので、候補は沢山あります。また、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も有効性があり、候補の一つになります。SNRIも基本的な使い方はSSRIと同じで、ゆっくりと有効量まで増やしていきます。効果が出るのも数週間かかります。
なお、SSRIを使う場合でもSNRIを使う場合でも、急に中止するとめまいや吐き気などの離脱症状(中断症状)が出るので注意が必要です。中止する場合は、徐々に用量を下げるという方法を取ります。
また、SSRIやSNRIには即効性がありませんが、すぐに不安を取る薬としてベンゾジアゼピンという薬が使われることがあります。ベンゾジアゼピンも薬のグループの名前であり、何種類ものベンゾジアゼピンがあります。
ベンゾジアゼピンは飲むと30分ほどで効果が出ます。即効性があるので使いやすく便利ではありますが、依存性があり、使い続けていると止めることが難しくなります。また、頭がぼーっとしたり、集中力が無くなったり、記憶力が低下したりなどの認知機能障害という副作用も出るので、仕事をしている人はミスが増えたり、勉強をしている学生は成績が落ちたりします。このような副作用から、諸外国では安易な使用は避けるよう注意喚起が出ています。しかし、日本の病院やクリニックでは安易に処方されることが多く、しかも量が多すぎるため問題視されています。
次に、精神療法について解説します。心理療法とも呼ばれます。社交不安障害の精神療法として一番推奨されているものは認知行動療法という治療です。人間は、何かを見たり聞いたりした時に直感的にいろいろと思い浮かぶものです。しかし、この直感には偏見が混ざっており、偏った捉え方をしていることが多々あります。認知行動療法では、これを自動思考と呼んでいますが、これがネガティブな方向に偏っていると、不安や怒りという嫌な感情を抱きやすくなります。
社交不安障害の人ですと、例えば、笑っている人を見ると、瞬間的に「自分を馬鹿にしているのではないか」と思ってしまうことがあります。笑っている人は、実際には全く違うことで笑っているだけかもしれません。それなのに、馬鹿にされていると思い込み、悲しんだり、怒ったりしてしまっては、感情を揺さぶられて損をするだけです。もっと柔軟に色々な角度で考えることができれば、無駄にネガティブな感情におちいらなくてすみます。こうして瞬間的な思い込みや偏見を改善していくことで、だいぶ落ち着いて物事を見たり聞いたりできるようになりますので、情緒は安定していきます。このような方法は、うつ病や他の不安障害の治療などにも効果的です。
また、不安になる状況にあえてさらされることで、徐々にその状況に慣れていくという治療法もあります。これを暴露療法と呼びます。不安な状況にあえて暴露されていく、さらされるという意味です。これは、段階的に行います。例えば、大勢の前に立つと緊張する人は、はじめは一人の前に立って話す練習から始め、それが難なくできるようになったら、二人の前で話す練習をする、次に、三人の前で話す練習をするというように、段階的にレベルを上げていくのです。いきなり大勢の前で話すことはできなくても、少しずつ人数を増やしていくのであれば、無理なく練習できます。この際に、いきなり負荷をあげて失敗させるのは逆効果なので、やめた方が良いでしょう。頑張ったのにやはり駄目だったという思い込みを脳に植え付けることになりかねません。これでは、二度と練習する気にならないかもしれません。筋力トレーニングでも同様だと思いますが、無理なく段階的に負荷を上げていくことが最後まで練習を続けるコツなのです。
イギリスのガイドラインでは、さきほど書いた認知行動療法と暴露療法を組み合わせて行うプログラム(社交不安障害に特化した認知行動療法)が推奨されています。また、こうした精神療法を薬物療法と同時に行うこともあります。ただ、日本の病院やクリニックでは一般的にプログラム化された精神療法をやっているところは少なく、不安障害に特化した認知行動療法を行っている施設はほとんどありません。このため、上記の方法論を取り入れながら独自に短い時間で精神療法を行っているところが多いはずです。短時間で行われる精神療法を、小精神療法などと呼びますが、これも効果がないわけではありません。大事なのは基本となる考え方ですから、認知行動療法や暴露療法の基本を知っておくことが大事です。
根拠となる文献:
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