精神科病院の入院と自由

精神科病院は極めて特殊な環境です。精神科病院に入院した患者様は、自由を大きく制限されます。
たとえば、病院から自由に外に出れない、部屋から自由に出れないなど、移動の自由を制限されます。拘禁反応と呼びますが、移動の自由を制限されると、精神状態が悪化する可能性があります。さらに、身体拘束される場合もあり、これは肉体的にも精神的にも非常に大きな苦痛を引き起こします。稀ですが、身体拘束により肺塞栓症を引き起こし、死亡することもあります。
精神科病院は、このような行動制限を行うことが、精神保健福祉法という法律により許されています(これについては憲法や国際条約と合わないのではという議論がありますが)。そのため、心の療養のために精神科病院に入院すると、期待外れになる可能性が高いです。精神科病院に入院しても、多くの人は気が休まらず、苦痛を強いられるからです。
そのため、私は、精神科医として、精神科病院への入院は、安全管理上、どうしてもやむを得ない事情がある場合に限りお勧めします。
どうしてもやむを得ない事情とは、たとえば、本人の自由を奪わなければ、精神症状によって他人に危害を加えたり、重大な迷惑行為(夜間に大声を出すなど)をする場合です。ただし、曖昧な推測では人の自由を奪う理由になりませんから、すでに実際に危害を加えたり、迷惑行為をしている、またはそれがほぼ確実だという場合に限られます。この場合、警察に相談した上で、措置入院(行政措置による入院)という方法を取る場合もあります。
また、精神科病院に入院しなければ、ほぼ確実に自ら死を選ぶ場合も入院の理由になります。しかし、外来治療でも自殺は防げますし、本人の苦痛を和らげる、静かな場所で療養する、経済的に支援するなど、心理社会的支援によっても自殺は防げます。入院以外に自殺を止める方法がない状況というのは、稀なことです。
こうして考えますと、なんらかの精神症状があるとしても、絶対に精神科病院に入院しなければならない状況はとても少ないものです。
私たちは基本的に自由です。法律が許す限りは(またお金の許す限りは)、行きたいところに行き、住みたいところに住むことができます。また、会いたい人と会うことができます。精神科病院に入院すると、こうした自由が大幅に制限されてしまいます。
国際社会からは、日本の精神科病院への入院では、あまりに自由がないため、人権侵害の要素が強いと批判されています。
自由を制限されるのは、とても辛いことです。精神症状は、通院での治療で改善することが多く、逆に、精神科病院に入院したところで改善しないことも多いです。どうか、安易に精神科病院への入院を考えず、どうしてもやむを得ない場合だけにしてください。