双極性障害(躁うつ病、双極症)
- 斎藤知之
- 6月12日
- 読了時間: 8分

双極性障害(躁うつ病、双極症と同じ意味です)とはうつ病(抑うつ状態)で動けなくなったり、躁病(躁状態)でとても元気になったりと、気分・活動性の大きな変動をくりかえす病気です。ここでは双極性障害の症状と治療について解説します。
目次
双極性障害の症状
うつ病の再発
双極性障害には、うつ病をくりかえす、何度も再発するという特徴があります。うつ病になって、元気になって、またうつ病になるというように、生涯にわたってうつ病をくりかえします。
双極性障害は遺伝子の要因が強いことが分かっています(親から子に遺伝するという意味合いではなく、生まれる時に作られた遺伝子の要因が大きいという意味です)。このために生涯にわたって続く「体質」と捉えることができます。アレルギー体質などと同様に、気分が上下する体質ということです。そして、アレルギーなどと同様に治療で症状をコントロールすることができます。
双極性障害によるうつ病は、普通のうつ病と治療薬が異なります。うつ病の治療薬(抗うつ薬)だけ使って双極性障害の治療薬を使わないと、一時的に改善しても、しばらくすると再発します。このため、双極性障害の薬を使う必要があります。
双極性障害によるうつ病は、普通のうつ病と見分けるのがとても難しいものです。ただし、中には、うつ病の症状と一緒に非定型症状といって、体が鉛のように重くなったり、倦怠感が強かったり、一日中眠くなったり(過眠)、食欲が増えたり(過食)することがあります。ただ、必ずしも非定型症状があるわけではなく、普通のうつ病と双極性障害によるうつ状態を見分けるのは困難と言われています。診断の決め手は現在または過去の躁状態を確認することです。
躁状態(躁病)
躁状態とは躁病とも言いますが、怒りっぽくなったり、活動的になったりする状態を指します。双極性障害の中には、躁状態が重い人もいれば、軽い人(軽躁状態)もいます。躁状態を自覚できない場合もあるので注意が必要です。たとえば、軽躁状態の時、本人は主治医に「うつ病が治った」「本来の自分に戻った」などと伝えることが多く、発見が遅れやすいです。
躁状態の時は、目標が高くなったり、社交的でよくしゃべる様になったり、自信がわいてきたり、睡眠時間を削っても疲れなくなったり、たくさん買い物をするようになったりします。ただし、これら全ての症状が出るわけではなく、同じ双極性障害でも人によって症状はちがいます。よくSNSで体験談を語る人がいますが、他人の症状を自分にあてはめないようにしてください。以下に躁状態の症状を列挙します。うつ病で受診される際は、今までに下記の症状が一つでも該当する場合、主治医に伝えて下さい。また、中にはうつ病の症状が出ている最中に躁状態の症状が混じる場合(混合性の特徴)もあります。
エネルギーがわいてくる。気分が高揚する。
怒りっぽくなる。興奮しやすい。
とても活動的になる。動き回る。たくさん働く。
自信がわいてくる。自分が凄いと思える。
睡眠時間を削っても平気で動ける。あまり眠らなくても大丈夫。
たくさん話す。とめどなくしゃべる。
色々なアイデアがわいてくる。たくさんの考えが思い浮かぶ。
注意が散漫であちこちに気が散る。
目標が高くなる。
お金を使いすぎる。ゲーム課金や投資に熱中する。
分類
双極性障害をⅠ型、Ⅱ型で分類する方法がありますが、それは躁状態の重症度で決まります。非常に躁状態が強いと、興奮が強くなり入院が必要になる場合があります。そのような重度の躁状態の既往があれば、Ⅰ型に分類されます。ただし、Ⅰ型であれⅡ型であれ、うつ病を繰り返す点は同じです。
なかには、躁うつ混合状態といって、躁状態とうつ病の両方がいっぺんに出てくることがあります。この場合は、激しく気分が変動し、1日のうちでも様々な症状が出てきます。
また、うつ病が続いている中に、躁うつ混合状態の症状が混じってくる場合は、混合性の特徴を伴う抑うつエピソードとか混合うつ病と呼んで、双極性障害に準じて治療することがあります。
鑑別疾患
双極性障害は、前述の通り、うつ病との鑑別が大事です。うつ病と双極性障害は経過により見分けることができますが、そのために鑑別に時間がかかることもあります。その他にも、双極性障害に近い症状を呈する病気を鑑別します。実は、様々な脳の病気(脳腫瘍、多発性硬化症など)や自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスなど)、ホルモン(内分泌)の病気(甲状腺疾患など)などが躁状態やうつ状態など双極性障害と似た症状を出すことが知られています。こうした現象は稀ですが、可能性がゼロではありません。これらは頭部MRIや血液検査、髄液検査などの検査で調べることができます。いきなり大がかりな検査をするのは過剰ですから、まずは血液検査で鑑別するのが一般的です。
双極性障害の治療
薬物療法
双極性障害の治療は主に薬物療法になります。精神療法(心理療法)を行う場合も、基本的に薬を一緒に使います。双極性障害に有効な薬は、炭酸リチウムや、非定型抗精神病薬(ルラシドン、アリピプラゾール、オランザピン、クエチアピンなど)、抗てんかん薬(ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピンなど。てんかんの治療薬と同じです)などがありますが、その時の状態により使う薬の種類は異なります。
うつ病相:うつ病(抑うつ状態)の時は、非定型抗精神病薬(ルラシドン、オランザピン、クエチアピンなど)がよく使われます。抗うつ薬を使うと、一時的に改善しても再発しやすく、躁状態を誘発することもあるため、抗うつ薬だけを使うことは推奨されていません。もしも、抗うつ薬を使うとしても、必ず上記の双極性障害の治療薬と一緒に使います。
躁病相:躁病・躁状態でも非定型抗精神病薬が使われますが、うつ状態の時とやや異なり、上記のほかに、リスペリドン、アリピプラゾール、アセナピンなども選択肢となります。また、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、炭酸リチウムなども躁状態で使用することがあります。病状によっては、複数の種類を併用して効果を高めます。
混合状態:1日のうちでもうつ状態、躁状態が混ざる場合は、うつ病相に準じて非定型抗精神病薬(ルラシドン、オランザピン、クエチアピンなど)を用いることが多いです。
維持療法:双極性障害では、症状が再発しやすいため、症状が安定してからも治療を継続します。このように再発を予防するため、気分が安定している時も継続する治療を、維持療法と呼びます。この時に使われる代表的な薬が、炭酸リチウムです。また、抗てんかん薬(ラモトリギン、バルプロ酸など)や非定型抗精神病薬(アリピプラゾール、クエチアピンなど)も維持療法の薬として使われることがあります。抗てんかん薬の中でも、ラモトリギンは、双極性障害によるうつ病(抑うつ状態)の再発予防効果が高いことが分かっています。ただし、こうした維持療法で再発のリスクを減らすことはできますが、完全に症状の再発を防ぐことは難しいのが現実です。再発した時は、上記のように、病状に応じて投薬内容を調整します。
妊娠中は炭酸リチウムやバルプロ酸が使えません。胎児への影響(催奇形性)が強いためです。このため、妊娠を考える時は、妊娠前にこれらを他の薬(ラモトリギン、非定型抗精神病薬など)に切り替えます。
薬物療法で十分な効果が得られない時は、修正型電気けいれん療法という治療も有効です。ただし、これはかなり重症な際に限られます。重度のうつ状態や躁状態になった際は、入院も考慮しなければなりませんが、基本的に、双極性障害は外来通院で治療可能な病気です。とにかく、しっかりと診断を見極めて、正しく薬を使うことが大事です。
心理社会的支援
薬物療法を行いながら、心理カウンセリング、認知行動療法(自分の考え方や行動を分析し見直すもの)などの精神療法を行うこともあります。双極性障害はストレスにより悪化しますから、ストレスのコントロールは重要です。心理カウンセリングや認知行動療法によって、自分なりのストレス対処能力を向上させていくことも重要になります。
また、生活リズムを一定に保つ、お酒を控えるなどの生活習慣の改善も大切です。たとえば、日によって夜更かししたり、起きる時間が遅くなるなど生活リズムの乱れがあると、病状が悪化したり、再発したりしやすくなります。規則正しい生活を心がけてください。また、多量のアルコールにより精神状態が悪化するため、お酒は控えた方が精神状態が安定します。生活習慣を変えることに抵抗を感じる方は多いですが、大事なことなので覚えておいてください。
社会的なサポートも精神的な安定のためには大事です。たとえば就労支援、自立支援医療などの障害福祉サービスの利用も積極的に考えることをお勧めします。精神療法と障害福祉サービスを合わせて心理社会的支援と呼びます。双極性障害では、薬物療法が大事ですが、こうした心理社会的支援も並行し、包括的に治療を組み立てることが病状の安定、生活の質の改善には不可欠です。