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医師がコロコロ変わるクリニック問題

  • 斎藤知之
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分

医師がコロコロ変わるメンタルクリニック

最近、心療内科や精神科では、医師がコロコロ変わるメンタルクリニック、心のクリニック、オンライン診療クリニックが増えています。ひどいと診察のたびに違う医師になるクリニックもあります。これについて注意喚起させていただきます。


目次


情報共有の問題


医師がコロコロと変わる最大の問題は、情報共有です。医療において情報はとても大事です。患者情報は、医師法という法律に基づき、カルテ上に厳重に保管されています。これには5年間の保管義務があります。このような法的義務があるのは、患者情報が極めて重要だからです。


心の治療、メンタルクリニックにおいては、感情の症状、それに伴う身体的な症状、薬の調整の履歴、副作用の履歴、生活状況、ストレスの背景など、様々な情報をもとに治療方針が組み立てられます。情報量が多いため、こうした情報を複数の医師で共有するのは時間がかかります。


私は横浜市立大学の大学病院に勤務しておりましたが、そこでは毎週長い時間をかけて患者情報を共有するカンファレンスを行なっていました。大学病院などでは複数の医師がチームを組んで、一人の患者様の治療を行います。このようなチーム医療では、情報共有にとても時間がかかるというデメリットがありますが、複数の医師の知見を合わせて治療方針を組み立てられるというメリットもあります。もしも、医師がコロコロ変わるメンタルクリニック(以下、長いので「医師コロクリニック」と省略させていただきます)において、長時間の情報共有やカンファレンスを行なっているのであれば、大きな問題はありません。しかし、残念ながら、医師コロクリニックに長時間の情報共有やカンファレンスはありません。


医師コロクリニックでは、医師は診察前の数分で、前に診察した医師のカルテを読み、診察を始めます。自分が書いたカルテなら素早く読めますが、他人が書いたカルテを読むのは時間がかかります。診察前の数分では、全てのカルテ情報を読むことはできません。このため、医師コロクリニックでは、ほとんど過去の情報が分からないまま診察することになります。そうなると、医師は、前の医師がどうしてこのような治療方針を立てたのか分かりませんし、そもそもこれから診察する患者様がどのような悩みを抱えているのか、どのような症状で困っているのかも分かりません。このように右も左も分からない状態で診察を始めたら、まともな診察にはなりません。情報を軽んじては、専門的な医療など不可能です。


人件費の効率化が目的


それでは、医師コロクリニックでは、どうしてこのような患者側にはデメリットしかない制度を設けているのでしょうか。


医師コロクリニックでは、医師が自ら変わりたくて変わっているわけではありません。経営者の都合で、強制的に変えられてしまっているのです。


経営者が医師をコロコロと変えるのは人件費の効率化の手段であり、少ない人件費で大きな売上を稼ぎ、利益を最大化する目的があります。これにはいくつかの方法があります。


たまたま空いている医師


医師コロクリニックの手法の一つは、経営者が、たまたま空いている医師を活用するという方法です。複数の医師を雇うと、あっちの医師は診察中だけど、こっちの医師は診察していないということが起こります。この時に、経営者は、たまたま空いている医師に診察させます。最近のオンライン診療だと、空いている医師に自動的に当たるようにプログラミングされたものもあります。


空いている医師をうまく利用すれば、医師の空き時間を減らせるため、経営者側としては、医師の稼働率を上げて、人件費を効率よく使うことができます。


しかし、患者側としては、たまたま偶然空いている医師に診察されてしまうので、ガチャと同じく毎回ランダムに医師が決まることになります。このために医師が毎回コロコロと変わるのです。


スポット勤務の利用


経営者が人件費を効率化するもう一つの方法は、スポット勤務の活用です。医師にも色々な雇用形態があり、その中にスポット勤務と呼ばれるものがあります。これは、普段は働いていない日に、別のクリニックで臨時に働くような雇用形態です。たとえば、とあるクリニックで働く医師が急に病気になって診療できなくなった場合、スポット勤務の医師に依頼して、代わりに診療してもらいます。このようなスポット勤務の使い方であれば、あくまで臨時的なものですから、デメリットは少ないと思います。


しかし、医師コロクリニックでは、このスポット勤務を人件費削減のために利用しています。経営者がスポット勤務の医師ばかりを集めてシフトを組み、診療させるのです。こうすれば、混んでいる日に多くスポット勤務医を集め、空いている日にはスポット勤務医を減らすなど、医師の配置を臨機応変に調整できるので、人件費を効率よく使うことができます。常勤医を雇うと、このように勤務日をコロコロと変えることができません。経営者の視点では、スポット勤務医はとても都合の良い雇用形態なのです。


情報共有の省略


医師コロクリニックでは、経営者があくまで利益のために医師をコロコロ変える仕組みを作っています。このような経営者は、患者側の利益を考えませんから、長時間のカンファレンスによる情報共有などありません。長時間のカンファレンスは多額の人件費が使われますが、売上には貢献しませんので、利益を圧迫します。つまり、経営者は利益にならない情報共有をやめたいわけです。


しかし、これでは医師同士の情報共有がほとんどない、医療のレベルが落ちますし、副作用のリスクも増えます。患者側にとってはリスクしかありません。前述したように、医師が毎回、右も左も分からない状態で診察を始めたら、まともな診察にはなりません。情報を軽んじては、専門的な医療など不可能です。


医師がコロコロ変わるのは問題


医師コロクリニックでは、経営上のメリットのために、患者を犠牲にしています。このような方法は、たとえ違法ではなくとも、社会的に許されないものであり、医の倫理に反しています。


もしも、あなたが通うクリニック(またはオンライン診療のクリニック)で診察のたびに担当する医師がコロコロと変わるなら、医師同士で情報共有できているのか医師に聞いてみてください。おそらく質問しても口ごもるか、曖昧な回答しか返ってこないはずです。情報共有を軽んじる医師コロクリニックでは、誤診や副作用のリスクがあります。もしも医師コロクリニックに受診してしまった場合、そこはあくまで臨時に利用するだけにとどめて、すぐに転院することをおすすめします。


なお、心療内科・精神科の選び方については別の記事に記載していますので、良ければご参照ください。


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