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医師がコロコロ変わるクリニック問題

  • 斎藤知之
  • 18 時間前
  • 読了時間: 6分

更新日:5 分前


医師がコロコロ変わるメンタルクリニック

医師がコロコロ変わる心療内科や精神科が増加


最近、心療内科、精神科では、医師がコロコロ変わるクリニックが増えており、診察のたびに違う医師が対応するところもあります。こういうクリニックは、多くの医師を雇用して毎日診療する体制を持ちますが、専門性のない医師が多く、医師同士の情報共有が乏しいため大きな問題となっています。以下に詳しく説明します。


目次


情報共有の問題


医師がコロコロと変わる最大の問題は、情報共有です。医療において情報はとても大事です。患者情報は、医師法という法律に基づき、カルテ上に厳重に保管されています。これには5年間の保管義務があります。このような法的義務があるのは、患者情報が極めて重要だからです。


心の治療、メンタルクリニックでは、症状はもちろんのこと、薬の履歴、副作用、生活状況、ストレスの背景など、様々な情報をもとに診断したり治療方針を組み立てたりします。医師がこれらの情報を把握できないと、正しく診断したり治療したりすることができません。


複数の医師で一人の患者を診療する場合、複数の医師で情報共有する必要が生じますが、それには時間がかかります。たとえば、私は横浜市立大学の大学病院に勤務しておりましたが、そこでは毎週長い時間をかけて患者情報を共有するカンファレンスを行なっていました。しかし、医師がコロコロ変わるメンタルクリニック(以下、長いので「医師コロクリニック」と省略させていただきます)では長時間の情報共有やカンファレンスがありません。


医師コロクリニックでは、医師は診察前の数分で、他の医師のカルテを読み、診察を始めます。しかし、診察前の数分だけでは膨大な情報を知ることはできません。このため、医師コロクリニックでは医師が過去の情報がよく分からないまま診察することになります。このように情報を軽んじては、専門的な医療など不可能です。


関係性の問題


メンタルの治療においては、医師と患者の関係性が治療の予後を左右します。良い関係を築けないと、治療がうまくいかないことがあるのです。このため、医師ー患者間の関係性は大事で、専門用語でいうところの「治療同盟」という強い関係性をつくることが求められます。しかし、担当する医師が毎回のようにコロコロと変わっては関係性を築くことなどできません。そのため、精神科や心療内科では、毎回同じ医師が診察する主治医制が原則です。医師コロクリニックでは医師ー患者間の関係性が破綻していることも治療の結果を左右する大問題です。


経営の都合で人件費を効率化


それでは、医師コロクリニックでは、どうして患者側にデメリットしかないのに、このような制度を設けているのでしょうか?


医師コロクリニックでは、医師が自ら変わりたくて変わっているわけではありません。あくまで経営者の都合です。経営者が医師をコロコロと変えるのは人件費の効率化の手段であり、少ない人件費で大きな売上を稼ぎ、利益を最大化する目的があります。これにはいくつかの方法があります。


  1. 偶然ひまな医師が診察


医師コロクリニックの経営手法の一つは、経営者が、偶然ひまな医師、たまたま空いている医師を活用するというものです。複数の医師を雇うと、あっちの医師は診察中だけど、こっちの医師は診察していないということが起こります。この時、今すぐ診察できる医師に診察させれば、それぞれの医師の空き時間を減らせるため、経営者側としては、医師の稼働率を上げて、人件費を効率よく使うことができます。しかし、患者側としては、偶然空いている医師に診察されてしまうので、ガチャと同じく毎回ランダムに医師が決まることになり、不利益しかありません。


  1. スポット勤務の利用


経営者が人件費を効率化するもう一つの方法は、スポット勤務の活用です。医師にも色々な雇用形態があり、その中にスポット勤務と呼ばれるものがあります。これは、普段は働いていない日に、別のクリニックで臨時で働く雇用形態です。たとえば、とあるクリニックで働く医師が急に病気になって診療できなくなった場合、スポット勤務の医師に依頼して、代わりに診療してもらいます。このようなスポット勤務の使い方であれば、あくまで臨時的なものですから、デメリットは少ないと思います。


しかし、医師コロクリニックでは、このスポット勤務を人件費削減のために利用しています。経営者がスポット勤務の医師ばかりを集めてシフトを組み、診療させるのです。こうすれば、混んでいる日に多くスポット勤務医を集め、空いている日にはスポット勤務医を減らすなど、医師の配置を臨機応変に調整できるので、人件費を効率よく使うことができます。常勤医を雇うと、このように勤務日をコロコロと変えることができません。経営者の視点では、スポット勤務医はとても都合の良い雇用形態なのです。


スポット勤務医は、あくまで臨時の医師ですから、専門性の高い診療を行うものではありません。一時的に対応してもらうならともかく、毎回別のスポット勤務医が診療するようでは、しっかりと診療することは難しいのです。


  1. 情報共有時間の省略


医師コロクリニックでは、経営者があくまで利益のために医師をコロコロ変える仕組みを作っています。このような経営者は、患者側の利益を考えませんから、長時間のカンファレンスによる情報共有などありません。長時間のカンファレンスは多額の人件費が使われますが、売上には貢献しませんので、利益を圧迫します。つまり、経営者は利益にならない情報共有をやめたいわけです。


しかし、これでは医師同士の情報共有がほとんどないため、ミスが多く診断や治療が雑になります。患者側にとってはリスクしかありません。前述したように、医師が毎回、右も左も分からない状態で診察を始めたら、まともな診察にはなりません。


医師コロクリニックは短期間の利用にとどめる


精神科や心療内科の治療は、主治医制が基本です。数回ほど医師コロクリニックに通うだけなら大きな問題にはならないかもしれませんが、数か月以上通院する場合や症状が強い場合は、いい加減な診療を受けて困ることになります。医師コロクリニックは、経営上のメリットのために、患者を犠牲にしています。もしもこのようなクリニックに受診してしまった場合、そこはあくまで短期間の利用にとどめて、医師が固定されている主治医制の医療機関に転院することをおすすめします。


なお、心療内科・精神科の選び方については別の記事に記載していますので、良ければご参照ください。



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