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初診の診断書

  • 斎藤知之
  • 1 日前
  • 読了時間: 3分

初診の診断書

よりどころメンタルクリニック桜木町では初診時から診断書を発行する場合も多いのですが、精神科医の間では、初診時から診断書を発行すべきではないという議論があります。これは、初診時の段階では患者様のことをよく知らないので、知らないのに診断書を出すのは問題だという考え方です。これは最近も厚生労働省の会議で話題になっています。



この考え方は一理あるものの、問題もあります。たしかに、精神疾患については長期的な経過を追っていかないと診断が確定しない場合があります。数か月から数年の症状の変化を評価しないと分からない疾患もあります。たとえば、双極性障害はうつ病や躁病を繰り返すことによって診断しますが、繰り返すかどうかは1-2年観察しないと分からないことがあります。統合失調症なども前駆症状の段階があるため、この段階で診断することはできません。


診断が確定しない段階で診断書を発行するというのは、たしかに矛盾したように聞こえます。しかし、診断書がすぐに必要な場合も珍しくありません。たとえば、休職や職場環境の配慮に必要なため、勤務先の会社からすぐに診断書をもってきてくれと言われることがあります。このような診断書は就業規則に定められていることもあり、会社のルールとして必要になってしまいます。


たとえ数か月から数年の経過を観察しないと診断できない場合があるとしても、そんなに長い間、診断書を発行してもらえないと困りますよね。しかし、精神科では暫定的に診断をつけることも可能です。これは国際的な診断基準においても認められています。


たとえば、うつ状態になり精神科に受診した場合、数か月後にうつ状態が改善したものの、今度は躁状態になり、その後にまたうつ状態になるという経過をたどる場合があります。この場合、初診の時はうつ病と暫定的に診断し、その後の経過によって双極性障害に診断を訂正します。このような診断の訂正は当たり前に行われているものです。


したがって、初診の段階でも、暫定的に診断して診断書を発行することは可能です。そして、すぐに診断書が必要な社会的事情もあるわけですから、こうした事情に配慮するのは精神科医としての社会的責任でもあります。そもそも、医師法においても診断書の発行は正当な理由がなければ拒めないと決められています。


以上の事情を踏まえまして、当院では、初診においても診断書を発行することが妥当だと考えています。ただし、その後の症状の経過により診断が変わることもあり、これも医学的に妥当なものですので、ご理解いただけますと幸いです。


なお、どんな精神疾患であれ、症状の経過を追って診断を再検討する必要があります。そのため、同じ医師が定期的に診察して病状の経過を把握することが、正確な診断のために必要不可欠です。時々、主治医制ではなく、診察のたびに医師がコロコロと変わるクリニックがありますが、そういうクリニックでは正確な診断は困難となりますので、気をつけてください。


最近は美容医療の法人がメンタルクリニックも開設することが見られ、そういうクリニックでは医師がコロコロと変わったり、専門性の乏しい医師が診察するなどの問題が見られます。医師がコロコロ変わるクリニックの問題については、当院ブログの別の記事でも紹介したとおりです。良ければご参照ください。



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