精神疾患の考え方
- 斎藤知之
- 4 時間前
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精神疾患とは心の病気やストレスによる病気の場合もあれば、脳や遺伝子の病気、発達障害、認知症なども含めますので、あまりにも概念が広すぎて分かりにくいと思います。
そこで、今回は精神疾患のざっくりとした分類方法をお伝えしたいと思います。大事なポイントは、考え方、思考回路です。人間は色々なことを考えますが、どれだけ現実的に考えているか、どれだけ論理的に考えているかには個人差が大きいものです。厳密に現実的かつ論理的な思考をする人はとても少なく、ほとんどの人の思考は多少は現実離れしていて、それほど論理的でもありません。多くの人は、占いを少しは信じたり、目の前の現実から目を背けたりします。少しだけ非現実的で非論理的な人が多数派です。しかし、絶対にあり得ないようなことを本気で信じる人は少ないものです。
何をどのように考えるのか、どうしてそう考えるのかなど、思考プロセスを分析することで精神疾患を診断できます。現実的・論理的に考えられなくなればなるほど、重度の精神疾患と言えます。
精神医学の世界では、絶対にありえないことを頑なに信じこむ場合を「妄想」と呼びます。一般的な妄想とは、あれこれと想像するような場合を指しますが、精神科医はそれを妄想とは言いません。精神科医の判断する病気としての妄想は、現実検討能力が著しく低下し、事実を認識できなくなる状態を指します。たとえば、自分一人なのに横に誰かいると本気で思い込んだり、テレビに出たこともないのにアナウンサーがテレビを通じて自分に語りかけていると本気で信じたりするようなものが妄想です。ここまで超自然的なものではなくても、検査で何の異常もないのに自分は重い病気になったと考える妄想や、貯金があるのにすぐに破産すると考える妄想などもあります。つまり、明らかに事実ではないことを本気で信じるものが精神医学での妄想です。
このようにはっきりとした妄想が出る精神疾患は、脳の病気という側面が強く、脳に作用する薬を使わないとなかなか治りません。妄想が出る代表的な精神疾患が統合失調症や妄想性障害であり、これらは脳の神経ネットワークの障害と考えられています。またうつ病や双極症(双極性障害)でも重症化すると妄想が出ます。こうした妄想がある人は、話せばその異常性が分かることから、素人目に見ても精神疾患ではないかと疑うことができます。また、妄想が出ると正常な判断能力が無いと考えられるため、法的にも運転が禁じられるなど、様々な制限を受けます。
しかし、精神疾患により妄想が出ることは少ないです。その他の精神疾患になっても、思考回路は正常です。話した限り普通の人にしか見えません。たとえば不安症や適応障害では思考の問題はありません。そして正常な思考の精神疾患が最も多いです。
たとえば、職場で上司から理不尽に怒られて、また明日も理不尽に怒られるのではないかと考える場合、思考の異常はありません。誰でもそれはそうだと理解できる考え方です。しかし、こう考えれば不安や怒りに苦しむかもしれませんし、そのせいで眠れなくなるかもしれません。つらい感情があまりに強まると精神疾患と言われるようになります。つまり、思考に異常がなくても、精神疾患になることはあるわけです。
よく、精神疾患と言われると「私は異常なのか」とか「頭がおかしいのか」などと疑問に思われる方がいます。いいえ、そうではありません。多くの精神疾患では、妄想がなく、きわめて正常な考えをお持ちで、普通にしか見えません。しかし、苦しみが強いために精神疾患と診断されるわけです。なお、思考回路が正常な場合、妄想がある人に比べれば重症度は低いと考えられます。
このように、精神疾患の診断では思考や考え方の評価が必要不可欠です。そのため、心療内科・精神科の診察では、医師は患者さんの話を聞きながら、患者さんがなぜそう考えたのか、どういう根拠をもってそのように考えたのかを評価したり分析したりしています。しかし、なかなか診察の時に考えている内容を教えてくれない人もいるため、考え方の評価は難しいものです。
別に論破するために理由を聞いているわけではないので、考えていることを医師に教えてくださると助かります。それが正しい診断や病状の評価につながります。