抗精神病薬の効果
更新日:2023年3月27日
このページについて:抗精神病薬は幻覚、妄想などを治療する薬です。抗精神病薬の種類や効果と副作用などについて説明します。
抗精神病薬とは、精神病症状を治療する薬のことです。精神病症状とは、ありもしないものが見えたり聞こえたりする幻覚という症状や、ありもしないことを信じこむ妄想という症状などを指します。ようは、現実にはないものに左右されてしまう症状のことです。こうした症状は、脳のドパミン神経系の一部(中脳辺縁系)が過剰に働くと出現することが分かっています。ドパミンとは神経伝達物質の一種で、ドパミンを利用している神経回路をドパミン神経系と呼びます。抗精神病薬の作用は、脳のドパミン神経系をブロックすることです。この辺をもう少し説明します。
脳内で神経細胞同士はシナプスという部分でつながるのですが、このシナプスでは神経伝達物質というものが出たり受け取られたりしています。これにより、神経細胞間で情報を伝達しています。この神経伝達物質を受け取る側を受容体と呼びます。例えば、セロトニンという神経伝達物質を受け取るものはセロトニン受容体と呼ばれ、ドパミンという神経伝達物質を受け取るものはドパミン受容体と言います。抗精神病薬はドパミン受容体のうち、D2受容体という種類を遮断します。これにより、ドパミン神経系の興奮を抑えるのです。
ドパミン神経系の一部である、中脳辺縁系が過剰に興奮すると幻覚や妄想といった症状が出ます。つまり、この部分のドパミン神経系を遮断すれば、幻覚や妄想という症状が収まるわけです。これだけ聞くと簡単な話だと思われる人もいるかもしれませんが、そううまくはいきません。ドパミン神経系と一言にいっても色々とあります。問題となっている部分だけを治療できれば良いのですが、その他の部分まで抗精神病薬の作用が及んでしまうことがあるのです。
ドパミン神経系は複雑な神経回路の集合体であり、部分により役割が異なります。例えば、ドパミン神経系の一部である黒質線条体系には筋肉の動きを調整する役割があります。この神経回路を抗精神病薬が遮断してしまうことがあります。すると、筋肉の動きが不自然になります。筋肉に力がずっと入った状態で硬くなったり、勝手に震えたりするのです。実は、黒質線条体系の障害により、筋肉が硬くなったり、勝手に震えたるする病気がパーキンソン病という病気です。抗精神病薬により黒質線条体系が遮断されてしまうと、パーキンソン病によく似た症状が出るのです。これを、薬剤性パーキンソニズムなどと呼びますが、抗精神病薬の持つ重大な副作用の一つです。
ドパミン神経系には、黒質線条体系以外にも色々とあります。意欲や集中力などに関わる中脳皮質系、プロラクチンなどのホルモン分泌に関わる漏斗下垂体系などです。こうした神経回路が抗精神病薬により遮断されてしまうと、意欲や集中力が低下したり、プロラクチンというホルモンの異常分泌が起こったりします。これらも抗精神病薬の副作用です。
この他に、抗精神病薬の副作用として有名なものは、アカシジアや遅発性ジスキネジアなどがあります。
アカシジアは、足がムズムズしたり、落ち着かなくなってそわそわしたり、歩き回ってしまったりする副作用です。むずむず脚症候群(レストレスレッグ症候群)という病気に似ています。
遅発性ジスキネジアは、口や舌がうねうねと勝手に動いてしまう副作用です。「遅発性」と書いてあることから分かると思いますが、この副作用はすぐに出てきません。こう精神病薬を始めてから何年と経過してから出てきたりします。
抗精神病薬の中には、ドパミン神経系以外に作用するものも多いです。例えば、ヒスタミン受容体やアドレナリン受容体、アセチルコリン受容体などをブロックする抗精神病薬があります。ヒスタミン受容体をブロックすると眠気が出ます。アドレナリン受容体をブロックすると眠気や血圧が下がるなどの作用が出ます。アセチルコリン受容体をブロックすると、眠気や記憶障害などが出たり、便秘や尿が出にくくなる、口が乾くなどの作用が出ます。こうした作用は副作用として認識されることが多いのですが、例えば眠気などの作用を利用して睡眠を助ける薬として抗精神病薬を利用する場合もあります。
抗精神病薬には第一世代抗精神病薬(または定型抗精神病薬)と呼ばれる種類と、第二世代抗精神病薬(または非定型抗精神病薬)と呼ばれる種類に大別されます。第一世代抗精神病薬は、ドパミン神経系のあちこちを遮断してしまうため、副作用が出やすいという問題がありました。これを改良し、過剰に興奮している中脳辺縁系のドパミン神経回路を集中的に遮断できるようにした薬が、第二世代抗精神病薬です。第二世代抗精神病薬は、セロトニン受容体の一種である5HT2A受容体を遮断することで、中脳辺縁系以外のドパミン神経系の機能を保つという作用を持ちます。これにより、第一世代抗精神病薬よりも薬剤性パーキンソニズムや意欲低下、プロラクチンの異常分泌、アカシジア、遅発性ジスキネジアといった副作用が出にくくなります。副作用が減っても、幻覚や妄想といった精神病症状を抑える作用は第一世代抗精神病薬と第二世代抗精神病薬の間に差がありません。効果は同じで副作用が少ないわけですから、近年では主に第二世代抗精神病薬が用いられます。
第二世代抗精神病薬には、幻覚や妄想といった精神病症状を抑える以外にも様々な効果があることが分かっています。例えば、抗うつ薬と第二世代抗精神病薬を一緒に用いることで、うつ病の治療に役立ちます。また、双極性障害といって気分が高揚し活動的になる躁状態と、うつ状態の両方の症状が出る病気にも、第二世代抗精神病薬が有効です。このように多くの精神疾患に有効なことから、第二世代抗精神病薬は幅広い用途で用いられるようになってきています。
抗精神病薬は主に飲み薬で、毎日きちんと内服しなければ効果はありません。ただ抗精神病薬には注射薬もあります。特に、数週間にわたって効果が持続する持効性注射剤(デポ剤)というタイプはよく使われます。持効性注射剤を使えば、毎日薬を飲まなくても、数週間に一度注射すれば効果が得られます。何らかの事情で毎日薬を飲めなかったり、飲み忘れてしまう人は、持効性注射剤の方がやりやすいでしょう。
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