抗精神病薬とメタボリック症候群
更新日:2023年3月27日
今回は抗精神病薬とメタボリック症候群の関係について解説します。
抗精神病薬とは、文字通り精神病症状の治療薬です。精神病症状とは、例えば、ありもしない声が聞こえるといった幻聴や、現実を正しく認識できず妄想を抱くなどの症状を指します。こうした精神病症状は、脳のドパミン神経と深く関わります。抗精神病薬は、このドパミン神経に作用して精神病症状を抑えます。
精神病症状は、主に統合失調症という精神疾患で出現しますので、抗精神病薬というと統合失調症の治療薬というイメージが広がっています。確かに、統合失調症の治療として抗精神病薬は欠かせませんが、抗精神病薬は双極性障害やうつ病など様々な精神疾患の治療に使われていますので、統合失調症だけの治療薬というわけではありません。抗精神病薬という種類の薬は、様々な精神疾患の治療で使われます。
このように精神科の治療には欠かせない抗精神病薬ですが、副作用の問題があります。抗精神病薬の副作用は色々あるのですが、今回はメタボリック症候群の副作用について解説したいと思います。略してメタボとも言いますね。
糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病は、精神疾患と深く関わっています。精神疾患になると食事のバランスが崩れたり運動不足になったりなど生活習慣が乱れますから、生活習慣病になりやすくなります。糖尿病や脂質異常症、高血圧は、その前段階も含めてメタボリック症候群とも呼びます。
メタボリック症候群は、ほぼ生活習慣病に近い概念です。メタボリック症候群は生活習慣の影響を受けるわけですが、いくつかの薬の副作用でリスクが高まることもあります。
実は、抗精神病薬の中のいくつかは、メタボリック症候群のリスクを高めてしまいます。
今回は7種類の抗精神病薬がメタボリック症候群に与える影響を調べた研究をご紹介します。この研究では、オランザピン、クエチアピン、ペルフェナジン、リスペリドン、アリピプラゾール、ハロペリドール、ジプラシドンについて調べられました。
ペルフェナジンとハロペリドールは第一世代抗精神病薬(別名、定型抗精神病薬)と呼ばれ、身体が動きにくくなるパーキンソン症候群という副作用が出やすい薬です。オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、ジプラシドンは第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)と呼ばれ、パーキンソン症候群の副作用が出にくいタイプになります。
この研究で調べた項目は、BMI(体重の指数)や血圧、血糖値、脂質(中性脂肪、コレステロールなど)といったメタボリック症候群に関する数値です。この結果、メタボリック症候群になりやすい薬と、そうでない薬が分かりました。
最もメタボリック症候群のリスクが高い薬はオランザピンでした。そして、2番目にメタボリック症候群のリスクが高いのがクエチアピン、3番目がペルフェナジン、4番目がリスペリドンという順番です。この4種類がメタボリック症候群のリスクを高めることは以前から知られていましたが、この研究では順位がついています。
一方で、アリピプラゾール、ハロペリドール、ジプラシドン(日本未発売)の3種類については明らかなメタボリック症候群のリスクを認めませんでした。このうち、アリピプラゾールとジプラシドンは第二世代の抗精神病薬でパーキンソン症候群の副作用も少ないですから、メタボリック症候群のリスクも少ないとなると、副作用のリスクはかなり軽減できていると言えます。
薬によって副作用は異なるものですが、なかなか比較する研究はないので、貴重な研究だと思います。皆さんの参考になれば幸いです。
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