不安・緊張・恐怖の対処法
- 斎藤知之
- 11月20日
- 読了時間: 9分
更新日:5 日前

ここでは不安・緊張・恐怖をやわらげる方法、対処法について解説します。
ここで解説する内容は、認知行動療法、暴露療法という精神療法(心理療法)を利用した方法です。なお、こうした方法は時間がかかるので、あせらないようにしてください。すぐになんとかしたいと思う人は多いですが、あせるとかえって不安症状が悪化しますので注意が必要です。また、軽い不安症状なら薬なしでも改善が見込めますが、不安症状が強くなった場合は、薬が必要になる場合もありますので、ご理解をお願いします。
目次
ステップ1:不安とは何かを知る
まず最初の段階として、不安について知ることから始めないといけません。不安・緊張・恐怖は誰にでもある自然な感情で、人間にとって必要なものです。不安や恐怖があるからこそ、人間は危険やリスクを回避します。不安や恐怖などの感情は身を守るための本能であり、誰にでもあります。
ただし、特に危険な状況ではないのに不安になったり、理由もなく恐怖におそわれては困ります。いくら必要な感情とはいえ、不合理・不自然な不安・緊張・恐怖は問題です。また、不安・緊張・恐怖といった感情があまりに強すぎると、動悸、吐き気、息苦しさなどの自律神経症状を引き起こします。また、回避症状とも言いますが、電車に乗れなくなったり、人に会えなくなったりします。このように、生活に支障をきたすレベルまで不安が強まると困ってしまいます。
つまり、不安・緊張・恐怖は私たちの身を守るために必要な感情だけれども、あまりに不合理だったり、強すぎたりすると良くないということです。私たちは不安・緊張・恐怖を完全に取りのぞこうとがんばる必要はなく、不合理・不自然にならないようにコントロールしたり、強くなりすぎないようコントロールすれば良いのです。
ステップ2:不安・緊張・恐怖による自律神経症状
不安・緊張・恐怖によるからだの症状についても説明します。危険がせまると、私たちのからだは臨戦態勢に入ります。すると、からだは様々な反応を示します。たとえば、心臓の鼓動が早くなったり、血圧が上がったり、呼吸の回数が増えたりします。これは私たちの中にある自律神経の働きであり、自然な現象です。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、不安・緊張・恐怖が強まると、主に交感神経が活発に働き、脈拍・血圧の上昇、息苦しさなどを引き起こします。これは自律神経の正常な活動であり、自律神経そのものには問題がありません。原因は自律神経ではなく、あくまで不安・緊張・恐怖などの感情です。
不安が自律神経に作用して引き起こす症状で、有名なものがパニック発作です。パニック発作とは、急に動悸、呼吸困難、冷や汗、めまい、吐き気、手の震えなどの自律神経症状が出現し、同時に強い不安感や恐怖感をいだく症状です。パニック発作が来ると、死んでしまうのではないか、気が狂うのではないかと怖くなる人も多いですが、そんなことはありません。パニック発作は、多くの場合5~10分程度でおさまります。
不安・緊張・恐怖による自律神経症状を自律神経失調症と言う医師もいます。この言い方だと、自律神経そのものが悪いかのような誤解をまねく場合があります。くりかえしますが、自律神経やからだには異常はありませんから、心配しなくて大丈夫です。
ステップ3:不安を軽くするための方法
続いて、不安・緊張・恐怖をやわらげ、軽くする方法について書いていきます。気に入ったものをためしてください。
深呼吸:鼻からゆっくりと息を吸い、息をいっぱいに吸い込んだら、息を吸う時よりもさらにゆっくりと息を吐きます。不安になると呼吸が早くなりますが、あまりに呼吸が早くなるとめまいや手足の痺れを引き起こします。無理に呼吸を止める必要はありませんので、ゆっくりと呼吸してみましょう。
筋肉の力を抜く:不安や緊張が高まると、無意識のうちに力が入っています。手足の力を抜いてリラックスしてみましょう。深呼吸をしながら、息を吐くときに力を抜くのも良い方法です。
リラクゼーション:静かな音楽をきく、本や雑誌をながめる、温かい飲み物を飲む、お風呂につかるなど、自分なりの方法でリラックスできることを見つけてみましょう。
運動・エクササイズ:習慣的な運動・エクササイズには不安症状やうつ症状を改善する効果があるという科学的・医学的なデータがあります。散歩、ジョギングなどの有酸素運動は身体の健康にも心の健康にも良いものです。まずは軽い運動から始めてみてください。
行動する:問題があると、あれこれと考えて不安になるけれども、問題の解決に向けて動くことはしない人は多いものです。しかし、それではいつまでも問題は無くならず、ずっと不安が続くことになります。ずっと心配し続けるよりも、対処法を探して行動する方が、結果として不安が解消されることもあります。悩むよりも行動することが、心理的にプラスに働くこともあるのです。
なお、くりかえしになりますが、不安・緊張・恐怖は誰にでもある自然な感情ですから、完全に無くす必要はありません。あくまで強くなりすぎないようコントロールするだけで十分です。
ステップ4:現実的に考える
感情をコントロールするために、考え方を現実的にすることも大事です。かたよった考え方や思いこみにより、不安・緊張・恐怖が強くなる場合があります。誰にでも多少かたよった考え方や思いこみがあるものですが、普段はそれに無自覚です。まずは、自分の中にある考え方を自覚してみてください。自覚するためには、自分が考えたことを書き出してみること、言語化することが必要です。
かたよった考え方の例としては、「もう一生自分は不幸のまま」だとか、「すべての人間が自分のことを悪く思っている」などがあります。しかし、冷静に考えれば、今が辛くてもそれが一生続くとは限りませんし、自分を嫌う人間がいたとしても世界中すべての人間から嫌われる可能性は低いはずです。このように、後で冷静になって振り返ると、そこまで悪く考えなくてもよかったと思えることがあります。是非、時間を作って過去の考え方を振り返り、文字に起こしてみましょう。
考え方は感情を左右します。実際よりも悪く考えると、余計に辛くなったり、不安になったりします。かたよった考え方を現実的な考え方に変えれば、つらい感情や不安が軽くなります。考え方を大きく変えるのではなく、少し見直すだけでも感情は変わります。まずは、自分の中に思いこみや偏見、かたよった考え方がどれだけあるのかを見つけてみましょう。
なかなか自分の考え方を見つけられない場合、自分自身に質問してみると、自分の考え方を発見できます。以下の質問を自分自身に投げかけてみて下さい。
私はどのような状況で、どのように考えているのだろう?
考え事の後に出てくる感情はどのようなものだろう?
私の考え方は、事実に基づく現実的な考え方だっただろうか?
私が悪く考えていたことは、本当にそれだけ悪いことだっただろうか?
私が心配していたことは、本当に起きる確率の高いことだったのだろうか?
本当に悪いことが起こったとしても、それは解決不可能な問題だったのだろうか?
このような自問自答により、自分の中にある考え方を自覚することができます。自分の考え方を自覚したら、それが本当に現実的な考え方だったのか見直してください。ただし、全ての考え方を見直す必要はありませんし、極端に考え方を変える必要もありません。どんな考え方にも良い点があります。自分の考え方の悪い部分だけを探すのではなく、良い点、メリットも探してみましょう。
ステップ5:不安・緊張・恐怖に向き合う
ある程度、不安・緊張・恐怖という感情がコントロールできるようになったら、今度はこうした感情に自分から向き合ってみましょう。不安なこと、怖いことは、つい避けてしまうものです。しかし、ずっと避けていては乗りこえることができません。克服するには小さな練習を積み重ねることが大事です。
この練習は「やりたくないことをやる」ことに意味があります。たとえば、電車に乗ると不安、恐怖がおそってくる人は、あえて電車に乗る練習をしてみます。このとき、まずは一駅区間だけ乗ってみるなど、最初は小さな目標にして、それが達成できたら次の目標にうつります。いきなり目標を上げるのではなくて、段階的に課題を設定して、一つ達成したら、次の課題にうつるというように、段階的に目標を上げていく方法が大事です。焦らずゆっくりと、ハードルを上げてみて下さい。特に初めは簡単なことから挑戦してみましょう。

このように不安・緊張・恐怖に向き合い、小さな練習を繰り返しながら乗りこえていく治療を暴露療法と呼びます。不安・緊張・恐怖に暴露する(さらされる)という意味です。不安・緊張・恐怖の認知行動療法では、こうした暴露療法もセットで行います。
ステップ6:自信をつける
不安・緊張・恐怖を減らすには、自信をもつことも大切です。目標を達成したら、自分を認め、自分をほめてください。また、今まで自分がやってきた努力を思い出しましょう。紙に過去の努力を書き出しても良いです。また、こうした努力によって不安・緊張・恐怖といった感情がどれだけ減ったのかも考えてください。自分が出した成果に気づかないのは、とてももったいないことです。自分がどれだけ頑張ってきたのかを理解し、自信をつけましょう。
不安の対処法の説明は以上です。こうした方法で改善が難しい場合は、薬による治療、薬物療法を考えて良いと思います。実際、薬物療法の方が不安症状に対する有効性は高いです。不安症での薬物療法では、SSRIなどの依存性のない薬が主体的に用いられます。薬に偏見をもつ人も多いですが、正しく使えば薬は安全なものです。
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