脳の血流とうつ病
このページについて:脳の血流とうつ病の関係を調べた臨床研究を紹介します。特に高齢の方は脳の血流がうつ病に関係する場合があると言われています。
今回は脳の血流、脳の血のめぐりとうつ病の関係について話します。
歳をとると、手足の血管が細くなり、血のめぐりが悪くなって、手足が冷たくなったり、痺れたりすることがあります。
脳の血管も同じで、歳をとると脳の血のめぐりが悪くなる人が増えます。血のめぐりが悪くなる原因は、単に歳をとることだけでなく、高血圧や脂質異常など、さまざまな生活習慣病も関係します。それでも、晩年になって影響が出てくることが多いですから、生活習慣だけでなく年齢も大きな要素です。
脳の血のめぐりが悪くなると脳梗塞になりやすくなったり、認知症のリスクが増えたりなど、様々な問題が発生します。そして、そのうちの一つにうつ病があると考えられています。
脳の血管が悪くなり、そのためにうつ病になることを血管性うつ病と表現することもあります。まだ仮説の段階ですが、今回はその仮説を検証した研究論文をご紹介します。
この研究では、50歳以上の人たちが参加しました。先ほども述べたように、高齢になると脳の血流が低下します。このため、この研究でもある程度高めの年齢層で調べたのだと思います。
この研究には、合計46人が集まりました。みなさんがうつ病の患者さんです。この方達を、ベンラファキシンという抗うつ薬により治療していきます。ベンラファキシンはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)に分類される抗うつ薬で一般的によく使用されます。
そして、治療の経過と共に、脳の血流がどう変わるか、MRIという機械を用いて測定しました。
一昔前はMRIで脳の血流を測定できませんでしたが、これが可能になったのは技術の進歩のおかげですね。arterial spin labeling(ASL)という最新の技術を使っています。
さて、この結果ですが、帯状回という脳中央を通る部分の真ん中および後側がうつ病の症状と関係していることが分かりました。この部分の血流が増えているほど、うつ病の症状が改善しているのです。どうやら、この辺りの血流が、うつ病と関係している可能性があるようです。
しかし、この結果だと血流が増えたからうつ病が良くなったのか。それとも、うつ病が良くなったから血流が増えたのかは分かりませんね。
因果関係の証明は難しいものです。うつ病と血流の低下が関係しているとしても、血流低下がうつ病の原因なのか、逆に、うつ病が血流低下の原因なのか判断しにくいんですよね。
病態の解明のため、さらなる研究に期待です。