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うつ病と痛みの関係

斎藤知之

このページについて:うつ病と痛みは相互に深く関係します。詳しく説明します。


誰だって痛ければ辛いですよね。肉体的苦痛が精神的苦痛に繋がることは、誰だって疑わないでしょう。一瞬の痛みであればまだ耐えられるかもしれませんが、慢性的な痛みになると精神的にはかなり苦痛になります。

例えば、自分のお腹が毎日、24時間、痛み続けるという状況を想像してみましょう。こうなると、歩くと余計に痛むので、座っていることが増えます。しかし、座っていても痛みは続きます。遠出することは難しいですから、気晴らしもできません。とにかく静かに痛みに耐え続けるわけです。こんな状態が平気な人は、おそらくいないでしょう。

癌・悪性腫瘍による慢性的な痛み・疼痛が、うつ状態の原因になることは珍しくありません。この場合、大元の原因である痛みを無視してうつ状態の治療をしても、気分が良くなるはずはありません。痛みを我慢しながら明るい気分になれと言われているようなものです。痛みによりうつ病となった場合は、原因である痛みを抑えることが何よりも大切です。

認知症の精神症状(認知症では抑うつ症状、イライラ、怒りっぽくなるなど色々な精神症状が出ます)でも、痛みが関わることが知られています。この場合も、痛みを抑えることで精神症状も緩和されます。

さて、痛みが原因でうつ症状が出ることを説明してきましたが、これは逆の関係も成り立ちます。うつ症状などの精神症状が、痛みを誘発することもあるのです。

例えば、うつ病になると、頭痛や腹痛などの痛みが出ることは珍しくありません。こうした痛みは、うつ症状の治療により改善が期待できます。例えば、抗うつ薬を用いてうつ病が改善すると、痛みも消失するのです。これは、痛みの原因であったうつ病が改善するからです。

つまり、痛みが原因でうつ病になることもあれば、うつ病が痛みの原因になることもあるのです。痛みと精神症状は相互に影響し合う関係なんですね。

ただ、このために因果関係が分かりにくいことがあります。痛みとうつ症状が同時にある場合、痛みによりうつ症状が出ているのか、うつ症状により痛みが出ているのか、なかなか判別できないのです。

痛みと精神症状の両方がある場合、原因と思われる方から治療をする方法もありますが、因果関係を決めつけずに、同時並行で治療するというやり方もあります。

例えば、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という種類の抗うつ薬(デュロキセチンなど)は、うつ病の治療に効果的なだけではなく、痛み止めとしての作用もあることが分かっています。痛みの神経回路に作用することで、痛みを和らげるのです。こうした薬であれば、痛みと精神症状の両方を同時に治療することができます。

また、今後はさらに研究が進み、痛みと精神症状の関係について新たなメカニズムが解明されるかもしれません。そうなれば、新たな治療法が見つかる可能性もあるでしょう。

例えば、最近は、神経の炎症が痛みを引き起こし、さらにうつ症状も引き起こすのではないかと言われてきています。すでに、その仮説を裏付けるような生物学的研究結果が複数存在します。これが事実であれば、神経炎症を抑える薬により、痛みとうつ症状の両方が改善するかもしれません。この辺りはまだ先の話ですが、今後の研究に期待したいですね。

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