ベンラファキシンと神経痛
更新日:2023年3月27日
このページについて:ベンラファキシンという抗うつ薬が神経痛の治療にも有効かもしれないという結果を出した、研究論文をご紹介します。
体の痛みと精神状態には密接な繋がりがあります。痛いと辛い気持ちになるのは当然ですが、辛い気持ちが続くと痛みが出てくることもあります。つまり、痛みと精神症状は、お互いに影響し合うのです。
実は、治療においても痛みと精神状態は関係があります。抗うつ薬(うつ病の治療薬)の一種であるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)というタイプの薬は、気持ちを落ち着かせる効果だけでなく、痛み止めの効果もあわせ持っています。
SNRIの中で、デュロキセチンという薬は痛み止めの効果があり、日本でも痛み止めとしての使用が認められています。
しかし、SNRIはデュロキセチンだけではありません。他にもいくつかあります。それなら、他のSNRIにも痛み止めの効果があるのか気になるところです。
今回はSNRIに分類される、ベンラファキシンという薬の効果についての研究論文を紹介します。この研究では、神経痛に対する効果に限って調べられています。神経痛は神経原性疼痛とか、神経因性疼痛などとも呼びますが、ようは関節や筋肉の痛みではなくて、神経自体の痛みです。
薬局で売っている痛み止めの多くは解熱鎮痛剤であり、NSAIDsというタイプなのですが、これは神経痛にはあまり効果がありません。神経の痛みには、神経に作用するタイプじゃないと効果が出ないのです。
SNRIは神経伝達物質という神経同士が連絡する時に使われる物質に作用します。つまり神経にダイレクトに作用する薬なのです。
この研究は系統的レビューというもので、過去の研究を複数集めて総括しています。一つの研究だけでは偏った結果が出ている可能性もありますが、多くの論文で統一した見解が出ているなら信頼できます。そのため、多くの論文を総括した系統的レビューは、一定のリスペクトを得ることができ、結果は尊重されます。
この系統的レビューではベンラファキシンと痛みに関する論文が13本集められ、総括されました。その結果、ベンラファキシンは神経痛に効果があるということが明らかになりました。
ただ、すでに神経痛に有効と言われている他の薬よりも優れているとは言えなかったようです。このため、すでに神経痛に有効な薬よりもベンラファキシンが良いとは言えません。
それでも、神経痛における治療の選択肢が増えるのは良いことです。薬は副作用で使えないこともあります。ある個人に薬を使用してうまくいかない場合は、他の薬を試さなくてはなりません。この時、薬の選択肢が一つしかなければ、他に試すことはできません。しかし、薬の選択肢が他にもあれば、その治療に進むことができます。これがどれだけ患者さんの希望に繋がるのか、想像にかたくないですよね。
神経痛の薬は多々あるものの、ベンラファキシンも選択肢の一つとなり得るわけです。こんなに頼もしいことはありません。
日本ではベンラファキシンを痛み止めとして使用することは、まだ認められていませんが、今後、適応拡大されるかもしれませんね。そのためには日本での治験も必要です。今後の研究に期待したいです。
引用文献:Aiyer R, et al. Treatment of Neuropathic Pain with Venlafaxine: A Systematic Review. Pain Med. 2017.
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