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仕事のやる気が出る薬

斎藤知之

時々、診察中に「仕事のやる気が出ないので、やる気の出る薬を下さい」「仕事のモチベーションが上がらないので、薬を下さい」などと言われることがあります。

そこで、今回は仕事のやる気が出る薬について語ろうと思います。

結論から言うと、そんな薬はありません。

ちまたでは、精神科についてガセネタが流布しています。そして、抗うつ薬を飲むとやる気が出るというガセネタもあるようです。

抗うつ薬はうつ病や不安障害などの精神疾患の治療薬です。うつ病になると、やる気が失われます。これは、仕事のやる気だけが出ないのではなくて、趣味や楽しいこと、簡単な家事すらやる気が出なくなります。

ある程度、重症なうつ病の場合、抗うつ薬が有効です。数週間抗うつ薬を内服するとうつ病の症状が改善し、やる気も少し出てきます。たしかに、その部分だけを切り取って見れば、抗うつ薬はやる気が出る薬かもしれません。

しかし、うつ病でない人が抗うつ薬を飲んでもやる気は出ません。それどころか、副作用の眠気や吐き気で働くのが難しくなることもあります。

つまり、普通の人が抗うつ薬を飲むと、かえって仕事のやる気が減る可能性があるのです。これは、他の精神科の薬でも一緒です。

抗うつ薬は普通の人にとって、決してやる気が出る薬ではありません。副作用だってあります。ある程度の重症度の高い精神疾患になってしまった場合は抗うつ薬の使用を勧めますが、普通の人は使わなくて良いものです。

それに、もしもうつ病になりやる気が出ないのだとしたら、抗うつ薬を使うとしても、同時に休養が必要です。休まずに頑張って仕事をしている場合ではありません。

他の病気でやる気が出ない場合も同じです。病気になったのであれば、休まず治すなんて考えない方が良いです。風邪と一緒で、無理をすれば、こじらせるだけです。

そもそも、仕事に対してやる気がないことが本当に悪いことなのか考えてみましょう。

やる気がないということは、やりたくないということです。本心ではやりたくないことなのに、やる気を出して取りかかるなんて異様です。あまりにも、自分の気持ちを抑え込んでいます。これを抑圧と言いますが、ようは自分に噓をついている状態です。それが正しいことなのでしょうか。

それに、そもそも仕事にやる気を求めるのが間違っていると考えることもできます。仕事には色々な種類がありますが、他の人がやりたくないことをやるから報酬をもらえるという側面もあります。他の人がやりたくないなら、自分もやりたくないのが当たり前です。こう考えると、仕事にやる気が出ないのは当然であり、そもそも仕事とはそういうものだと言うことができます。

中には、面白く、やりがいのある仕事もあると思います。もしも、世の中の仕事がそんなものばかりであれば、とても素晴らしいことでしょう。しかし、仕事は遊びと違います。楽しいことばかりではありません。やりたくないけど、やるしかないことも沢山あります。

これは私の個人的な考えですが、意欲的に仕事に取り組んでいる人でも、全ての仕事にやりがいを感じている人は少数派に思います。モチベーションが高く、仕事のやる気がある人でも、全ての仕事に対してやる気を持っているわけではないということです。

仕事にやる気が出ないと悩んでいる人は、まずもって、仕事にやる気が出ないのは当然であり、だからお金がもらえるシステムなのだと考えてみてはいかがでしょうか。

また、疲れがたまり、いつもよりもやる気が出ない場合は、よく休むことが大事です。疲れているのに無理してやる気を出すと、心身の健康を損ないかねません。たとえ今は病気でなくても、いつか病気になるかもしれません。無理にやる気を出すなんて、やめておいた方が良いでしょう。

仕事のやる気が出ない様々なケースを考えてきましたが、薬を飲んで無理して仕事をするのが良いケースなんてありません。安易に薬に頼ろうとせず、まずは自分の生活、仕事の仕方を振り返り、無理してないか、自分の気持ちを抑え込んでいないか反省してみて下さい。

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