ADHD-注意欠陥多動性障害

ADHD(注意欠陥多動性障害)は発達障害の一種です。ここで症状や治療法について解説します。
目次
ADHDの症状
ADHDは注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の略語です。 この言葉は広まりすぎて、実際の診断基準とは違う意味合いが強くなってしまいました。インターネットでは、皆さん好き好きにADHDの症状を主張していますが、そのどれもが本当にADHDと関係するものなのか疑問なことが多いです。また、人を馬鹿にする際にもADHDという病名が用いられることがあり、これはただの「差別」なので残念なことだと思います。
しかし、本当にADHDという発達障害の一種があり、これに困っている方が沢山いるのも事実です。まずはADHDの診断基準となるような症状を確認してみましょう。
ADHDでは、症状が不注意のみの場合、多動または衝動性のみの場合、不注意と多動・衝動性の両方がある場合があります。
不注意症状
不注意症状については、以下のようなものです。ただし、人間ならだれもが不注意があります。不注意が病的な症状であると考える時は、その症状の程度が強く、学業、生活、仕事に支障がある場合です。以下の症状のうち5つ以上(17歳未満は6つ以上)が子供の頃から続いており、学業、生活、仕事に支障があるとADHDの可能性が高いです。
学業、仕事、または他の活動中に集中することができない、または不注意で間違いをする。例えば、細部を見過ごしたり、作業が不正確になる。
課題または遊びの活動中に、注意を持続できないことが多い。例えば、授業、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい。
直接話しかけられているのに、聞いていないことが多い。
学業や仕事を、やり遂げることができないことが多い。例えば、課題を始めるが、すぐに集中できなくなったり、脱線してしまう。
課題や活動を順序立てて行うことが難しい。たとえば、資料や持ち物を整理できない、作業が雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れないなど。
努力の持続が必要な課題(宿題や書類にもれなく記入すること、長い文書を見直すことなど)を避けることが多い。
課題や活動に必要なもの(学校教材、書類、眼鏡、携帯電話、鍵、財布など)をよく無くしてしまう。
ちょっとしたことで、すぐに気が散ってしまうことが多い。
日々の活動で忘れっぽい。例えば、用事やお使い、お金の支払い、人と会う約束などを忘れてしまう。
多動・衝動性
多動・衝動性については、以下のものがあり、このうち5つ以上(17歳未満は6つ以上)が子供の頃から続いているとADHDの可能性が高いです。
手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたり、椅子の上でもじもじしたりすることが多い。
座っていないといけない場面で、席を離れてしまうことが多い。たとえば、教室や職場など、そこにとどまらないといけない場面で、自分の場所から離れる。
走り回ったり、高いところに登ったりなど落ち着きがないことが多い。
静かに遊んだり、余暇活動・趣味を楽しむことが、あまりできない。
じっとしていられず、非常に活発に行動することがよくある。
しゃべりすぎることが多い。
相手の質問が終わる前に答え始めたり、相手の言葉をさえぎったりしてしまうことが多い。会話で自分の番を待つことができない。
自分の順番を待つことができない。例えば、列に並ぶのが難しい。
他人を妨害したり邪魔したりすることが多い。例えば、他人のことに口出ししたり、人の物を横取りする。
ADHDの診断には、子供の頃の症状の確認が必要です。ADHDの症状は子供の時に強く、成長するにつれて軽くなる経過をたどります。正しく診断するために、自分の子供の頃の症状を自分の親に確認してください。また、親のどちらかがADHDだと半分くらいの確率で子供もADHDとなります。このように遺伝的な要素もあるため、親のADHD症状も本人の診断に役立ちます。
大人になると殆どADHDの症状が残っていない場合もあります。つまり、ADHDは成長とともに治ることもあるものです。また、ADHDは女性よりも男性に多いことも特徴です。
鑑別疾患
ADHDの症状があっても、ADHDではない場合があります。以下に鑑別すべきポイントを記載します。
他の精神疾患
うつ病、不安症、統合失調症など様々な精神疾患により、集中力が途切れたり、衝動的になったりすることがあります。これをADHDと誤解する場合があります。こうした精神疾患によりADHDに似た症状が出る場合、子供の頃は症状が無く、精神状態が不安定になってから症状が出ます。一方、ADHDは、子供の頃に症状が強く、成長するにつれて症状が軽くなります。つまり、精神疾患による不注意症状と、ADHDの症状は逆の経過をたどるので、見分けがつきます。
他の発達障害
知的障害(精神遅滞)がADHDと間違われることがあります。これは知能検査(WISC、WAISなど)により知能指数を測定すると鑑別できますが、学歴や学校の成績によっても大体の判断は可能です。
他の身体疾患
甲状腺ホルモンの疾患など身体的な病気で集中力が阻害されたり、衝動的になることがあります。このため、こうした疾患とADHDとの鑑別が必要になり、一般的には血液検査で鑑別します。
過剰要求
疾患ではないですが、周りの人からの要求・期待にこたえようと頑張りすぎている方は、自分がADHDだと思い込むことがあります。十分に集中して勉強したり、働いたりしているのに、さらに頑張れと周囲から要求されたり、期待されたりすると、その要求や期待にこたえられない事態になります。むしろ、強いプレッシャーを感じて、ミスが増えたり、集中が途切れたりすることもあります。すると、自分はADHDだから仕方ないという言い訳が必要になります。これはADHDではなく、周囲が本人を追い込みすぎているという状況です。プレッシャーが増えれば増えるほどミスは増え、集中力は下がりますから、プレッシャーを下げるためにも、無理をせず、マイペースに勉強したり、働いたりすることが大切です。周囲の人は、本人を追い込まないように気をつけてください。
疾病利得
本来なら病気ではないと診断されるのは良いことです。しかし、ADHDではないと診断されると不快に思う人や、自分がADHDであってほしいと願う人がいます。これは、ADHDと診断された方が本人にとって良いことだからです。このように病気と診断されることで得をすることを疾病利得と言います。上記の過剰要求の項目でも記載したとおり、疾病利得には、言い訳として診断を利用したい場合もあれば、診断されることで社会保障を得たい場合もあります。ADHDによる疾病利得を目的とする方は、ADHDの症状を誇張して医師に伝えることが多く、このために間違った診断がなされることもあります。ただし、本人が疾病利得に無意識なことも多いです。また、疾病利得の背景に、周囲の過剰な要求にこたえないといけない実態があることもあり、安易に本人を責めることはできません。疾病利得の場合、その背景や理由まで考えることが大切です。
薬物療法
ADHDの症状は薬物療法で改善できます。以下に薬を解説します。
メチルフェニデート(コンサータ)
よく使われるのはメチルフェニデート(コンサータ)という薬で、海外ではADHDに対する第一選択薬です。飲むとすぐに効果が出るという特徴があり、集中力の改善が期待でき、眠気覚ましの効果もあります。ただ、自分に合った用量は人によって違いますから、一般的には低用量から始めて効果や副作用を見ながら用量を増やし、自分にとっての適量を探していきます。問題点は、精神的な副作用であり、軽度の依存性、乱用のリスクがあります。ただ、これらは軽度であり、一度コンサータを使い始めたら中止できないというほどのものではありませんので、あまり心配しなくて大丈夫です。その他、コンサータには、不安やイライラが強まる、眠れなくなるなどの精神的な副作用や、食欲低下、脈拍や血圧を上げるなどの副作用が知られています。
日本ではADHD適正流通管理システムに登録し、IDを発行してもらわないとコンサータを処方してもらうことができません。また、処方する医師側にも資格が求められます。処方日数は30日以内に限定されます。なお、当院(よりどころメンタルクリニック桜木町)ではメチルフェニデート(コンサータ)を処方できます。
リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
メチルフェニデートで効果がない場合、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)という薬も選択肢になります。ビバンセはコンサータと同じタイプになり、効果や副作用はよく似ています。ただし、現在のところ、ビバンセは小児期(18歳未満)にしか使えません。また、コンサータと同様、ADHD適正流通管理システムに登録が必要で、処方する医師側にも資格が求められます(注:よりどころメンタルクリニック桜木町では、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)については処方できません)。
アトモキセチン(ストラテラ)
ADHDの症状改善には、アトモキセチン(ストラテラ)もよく使われます。ストラテラの効果は、コンサータよりも弱いのですが、精神的な依存性がないため、精神状態に問題がある場合には使いやすい薬です。処方に登録や特別な資格が必要なく、30日の処方制限もありません。ストラテラは、メチルフェニデートと違って即効性が無く、効果が出るまでに何週間もかかるので、辛抱強く毎日飲み続けないといけません。途中でやめてしまうと効果が出ません。また、内服開始後に吐き気、頭痛、眠気などの副作用が出ることがあります。こうした副作用は時間と共に改善していくことが多いです。
グアンファシン(インチュニブ)
グアンファシン(インチュニブ)という治療薬もあります。インチュニブも、ストラテラと同じように、処方に登録や特別な資格が必要なく、30日の処方制限もありません。インチュニブについても、コンサータのような即効性はなく、何週間も継続しないと効果は出ません。また、眠気、めまい、血圧低下などの副作用が出やすいという問題があります。インチュニブを開始する時は、徐々に増量します。また、中止する時は、急な中止で離脱症状の可能性があるため徐々に減らしてから中止します。
海外のガイドラインでは、まずコンサータを試してみて、副作用の問題でコンサータの継続が困難であったり、効果が出なかったりした場合は、他の薬を使ってみるという順番が推奨されています。
ADHDで気をつけること
以下にADHDの症状改善のための工夫や気をつけることをまとめます。
習慣作り
簡単なことではありますが、スマホのスケジュール帳やメモ帳機能などを活用して、忘れ物を減らすための習慣を作ることは大事です。できればルーチンワークを増やしておくと、忘れ物が減ります。また、同時にたくさんの作業をするとミスが増えるので、作業を一つずつ順番に行うよう心がけてください。
精神状態を保つ
焦ったり、強いプレッシャーを感じたりすると、ミスが増えたり、衝動的になったりします。ミスや衝動性を減らすためには、自分の気持ちを安定させることが大切です。リラックスする時間を作ったり、気分転換したりして、精神状態を保ちましょう。また、周囲の人には、プレッシャーをかけないようお願いできると良いと思います。それが難しい場合、プレッシャーをかける人から離れることも考えた方が良いです。
成長を待つ
まだ幼い場合、成長するにつれてADHDの症状が自然と減ることが期待できます。焦らず成長を待つことも大事です。親は子供に対して過剰にプレッシャーをかけないように配慮して、ミスを減らす習慣を一緒に作っていくよう考えてみてください。