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生物心理社会モデル

精神疾患の要因を考える上で便利な「生物心理社会モデル」について説明します。精神疾患は多因子であることが理解できます。


精神疾患・精神障害は多因子説が有力で、複数の要因が絡むと考えられています。しかも、それぞれの要因も相互に影響するため、非常に複雑です。この複雑系を理解するために、精神疾患に関する要因を、生物学的要因、心理学的要因、社会的要因の三つに分類する考え方があります。これが、ジョージ・エンゲルが1970年代に提唱した生物・心理・社会モデル(bio-psycho-social model)です。

生物心理社会モデル

心理学的要因と社会的要因はとても近いため、心理社会的要因とまとめて考えることが多いです。心理学的要因とは、たとえば個人の考え方や価値観のメンタルの影響です。たとえば、物事の捉え方一つで、気持ちは変わります。よくある例えですが、コップに半分まで水が入っているのを見て、「半分しか水が入っていない」とネガティブに捉えるか、「半分も水が入っている」とポジティブに捉えるかで気持ちは変わります。当然ですが、ポジティブに捉える方が気持ちは明るくなりますし、ネガティブに捉えると暗い気持ちになります。また、自尊心、ストレスを処理する能力、自分をコントロールする能力などの心理学的要因も、精神疾患に影響します。


社会的な要因は、人間関係や経済的な背景などです。身の回りの人との人間関係は心を揺さぶります。親子関係の問題や、夫婦関係の問題、職場の人間関係の問題などをきっかけに、うつ病や不安障害などの精神疾患になることもあります。また、経済状況も重要な要素です。やはり、お金の不安は強いものです。経済的支援を受けると気持ちが落ち着く方も多いです。

生物学的要因は、脳や遺伝子などの要素です。例えば、自閉症スペクトラムやADHD(注意欠陥・多動性障害)などの発達障害は、生まれながらの脳の異常であり、遺伝的な要素が強いものです。最近では、発達障害に脳の神経ネットワークの問題があることが、様々な研究から明らかになってきました。また、高齢者の精神疾患でも生物学的な要素が強くなります。歳を取ると脳が老化し、異常なタンパク質がたまったり、脳の血管が細くなったりします。こうした脳の生物学的な変化により、やる気が出なくなったり、怒りっぽくなったりと様々な精神症状が出ることが分かっています。さらに、ホルモン・バランスやビタミン不足、免疫の異常なども精神疾患の発生に関わります。これらも重要な生物学的要因で、血液検査で確認できます。

​このように、精神疾患は多因子が絡みます。これらをしっかりと評価するために、生物・心理・社会モデルは現在も利用されています。時々、精神疾患を単に心理的なストレスだけで説明したり、脳の異常だけで説明したりする人を見受けますが、そんなに単純に考えて良いものではありません。精神疾患には複数の要因があるので、多角的に評価する必要があるのです。

また、精神疾患の治療について考える上でも、生物・心理・社会モデルが役立ちます。生物学的は主に薬物療法、つまり、薬を使った治療になります。向精神薬は脳に直接的に作用して精神症状を改善させます。例えば、SSRIという抗うつ薬なら、脳のセロトニンという物質を増やして、うつ病を治療したり、不安症状を改善させます。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬であれば、脳の神経のGABA受容体という場所に作用して不安を取り除きます。まさしく、脳に生物学的をもたらす薬が向精神薬になるのです。また、薬以外では脳に電気や磁気を流す治療もあります。

心理学的な治療としては心理カウンセリング、精神療法があります。精神分析や認知行動療法が代表的です。医師と患者、または心理士と患者の対話により治療していくものが多いですが、行動療法といって、行動を変化させたり心のトレーニングをするような治療もあるので、必ずしも対話が必要なわけではありません。また、単に病気について説明したり、ストレスの対処方法を教えるだけでも、気持ちを落ち着かせる効果があるため治療と考えることができます。これを心理教育と呼びますが、これも心理学的治療の一つとして考えることができます。

社会的な治療は、社会的介入と言ったり、社会的支援と言ったりもします。家族の協力を得たり、福祉・行政のサービスや経済的支援を受けたりなど、社会的に生活をサポートするものです。これは医療職の治療ではありませんが、精神的な支えになり、精神科の治療に良い影響を与えるので、大事な治療の一つです。

このように、精神科の治療には色々な種類があります。単に診断をつけるだけでは、どの治療を選べば良いのか分からない場合もあるので、どのような背景があるのか、原因について考えることが治療を選択する時に重要になります。

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