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うつ病の治療

更新日:2023年3月27日

このページについて:うつ病の治療法は多種多様です。精神療法や薬物療法、機械を使う治療などがあります。詳しく説明します。


精神療法(心理療法):うつ病の精神療法には、心理教育、認知行動療法、対人関係療法など様々な方法論があります。まずは心理教育から解説します。

心理教育とは、簡単に言えば病気の解説、説明です。うつ病について丁寧に説明することが、治療の第一歩なのです。当然ですが、何も知らされずに治療されるなんて、誰でも嫌ですよね。医師の説明が不足していると、「大丈夫かな?」と不安になったり、疑ったりしてしまうでしょう。説明不足は医師と患者の信頼関係を壊す可能性もあります。逆に考えれば、丁寧な説明は信頼関係を築きますし、患者さんの安心をもたらします。精神科の治療において、医師と患者の信頼関係は大事で、信頼関係が治療の成功率まで左右することが統計的に分かっています。だからこそ、最初は丁寧な説明、心理教育が重要なのです。

次に、認知行動療法について説明します。認知行動療法は、うつ病の精神療法として有効なことが統計的に分かっています。私たち人間というものは、どうしても偏見や誤解を抱いてしまうものです。偏見、誤解は瞬間的に頭に浮かびます。例えば、笑っている人を見ると、自分がバカにされているのではないかというネガティブな発想が浮かぶことがあります。実際には、笑っている人は全く関係ない話を楽しんでいるだけなのかもしれません。しかし、とっさに自分について話していると勘違いしてしまうわけです。

こうした誤解は、無用な苛立ちや怒りを生みます。そのせいで、口論や喧嘩が起きて、大切な人間関係を損なうこともあるかもしれません。本来なら誤解なんて無い方が良いのですが、こうした誤解は瞬間的に思い浮かぶものなので、なかなか止められません。これは、勝手に出てくる考え方ですので、自動思考と呼ぶこともあります。

ただし、その場では思い込みがあったとしても、しばらくしてから自分の考え方を振り返り、「あれは誤解だったかもしれない」「悪い方向に考えすぎたな」などと反省することはできます。こうすれば、次に似た場面に遭遇した時に、少しは怒りが弱まるかもしれませんし、無駄な口論や喧嘩を防ぐことができるかもしれません。

このように、自分の頭の中にとっさに浮かんだ発想、偏った考え(これを認知の歪みと呼びます)を後に振り返り修正していくことで、感情や行動を変えていく方法が認知行動療法です。平たく言えば、自分の中にある物事の捉え方を見直す治療です。

対人関係療法も自分を振り返るという点で認知行動療法に似ているのですが、人間関係に注目している点が特徴です。

人間関係は難しいもので、お互いを支え合う関係もあれば、敵対関係もあります。また、人間は他者に色々と期待するものですが、友人や家族などの親しい人たちには自分を理解してほしい、支えてほしいと期待しますよね。そして、期待通りに親しい人が自分のことを理解してくれて支えてくれれば嬉しいと感じます。しかし、親しい人が自分のことを誤解したり、批判したりすると、その人から裏切られた思い、怒りがわいたり、ひどく悲しくなったりします。

つまり、人間関係は良くも悪くも私たちの心を揺さぶるのです。それならば、他者との関係性やコミュニケーションの取り方などを見直すことで、感情を安定させることができそうですよね。その試みが対人関係療法です。

対人関係療法では、治療者と患者が一緒に、現在の人間関係のあり方、他者との接し方を振り返り、考え直せる部分がないか検証していきます。例えば、自分が相手に期待しすぎていないかと反省したり、相手から誤解されるような態度を取っていないか見直したりします。この対人関係療法もうつ病の治療として有効なことが統計的に分かっています。

薬物療法:次に薬物療法について説明します。うつ病の治療薬は抗うつ薬と呼ばれますが、抗うつ薬にはいくつかの種類があります。

どの抗うつ薬も、使い方は共通しています。開始する時は、数週間かけて段階的に量を増やします。また、中止する時は逆で段階的に数週間かけて減らしていきます。これを守らないと、気持ち悪くなったり、めまいがしたりという副作用が強く出てしまいます。

どの抗うつ薬も、飲み始めてから数週間して、じわじわと効果が出てくるという特徴があります。抗うつ薬は即効性が期待できる薬ではなく、使い続けることで少しずつ効果が出る薬なのです。

色々な抗うつ薬がありますが、効果の程度はどの抗うつ薬も同じくらいですから、効果の高いものから使用するというよりも、副作用のリスクが少ないものから使い始めるのが一般的です。

副作用の強い抗うつ薬としては、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬などがあり、眠気やふらつき、便秘や尿が出にくくなるなど色々な副作用があり、不整脈のリスクが上がることもあります。一方で、SSRIやSNRI、ミルタザピンという種類の抗うつ薬は副作用が少なめですので、優先的に使われます。

うつ病が一種類の抗うつ薬だけで改善しない場合は、ほかの薬を組み合わせることがあります。例えば、セロトニンやドパミンの機能を調整するタイプの薬であるアリピプラゾールやオランザピンなどの非定型抗精神病薬を抗うつ薬と一緒に使ったり、炭酸リチウムという薬を抗うつ薬と組み合わせて使うことがあります。こうして、抗うつ薬に他の種類の薬を組み合わせ、効果を高めることを増強療法と言います。

また、生薬系では、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)というハーブや、加味逍遙散という漢方薬などがうつ病を治療する効果があることが分かっています。セントジョーンズワートはインターネットなどで購入可能ですが、抗うつ薬と一緒に使うと副作用のリスクが高まるため、一緒に使わないように注意してください。

身体療法:うつ病の薬は色々とありますが、なかなか薬の効果が出ない人もいます。また、抗うつ薬は効果が出るまで時間がかかり、即効性が無いのが欠点です。どうしても薬が効かない人や、すぐにうつ病を良くしないといけない人、例えば、うつ病のため自殺への思いが強くなりすぎた人などには、薬以外の治療法を選択します。

機械により脳に電気を流す治療というものがあり、これによりうつ病を治療することもできます。脳に電気を流し、てんかんという現象を引き起こすことでうつ病を治療します。これを、電気けいれん療法と呼びます。さすがに電気を流すのですから、痛みや苦痛をともないます。そこで、今では麻酔をかけて苦痛を感じないように電気けいれん療法を行います。麻酔をする場合、修正型電気けいれん療法と呼びます。

電気けいれん療法の治療効果は高く、抗うつ薬よりも優れています。また抗うつ薬よりもすぐに効果が出る、即効性があるのが特徴です。強力かつ迅速な治療と言えるでしょう。かつては、記憶障害などの副作用も懸念されていましたが、近年の電気けいれん療法は改良が施され、記憶障害が起こらないという統計結果が得られています。

この他にも、磁気を使ってうつ病を治療する反復経頭蓋磁気刺激という治療法や、光を当ててうつ病を治療する光線療法という手法もあり、いくつかの医療施設で使われています。

治療選択・意志決定プロセス:さて、うつ病の治療を色々と紹介してきましたが、非常に多岐にわたることがご理解いただけたと思います。さらに、通院しながら治療するのか、入院して治療するのかという選択肢もあります。状況に応じて、適した治療法を選ぶのはもちろん大事ですが、患者さんの意思で治療を選択することも大事です。医師が一方的に治療法を決めるのではなく、医師と患者がよく相談して、場合によっては家族も含めて話し合い、うつ病の治療を「選ぶ」というプロセスが、医師と患者の信頼関係構築のためにも必要と考えられています。


参考文献:日本うつ病学会治療ガイドライン

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