脳梗塞のうつ病(脳卒中後うつ病)
更新日:2023年3月27日
このページについて:脳梗塞や脳出血後に、うつ症状、幻覚、妄想など多様な精神症状が出ることがあります。詳しく説明します。
みなさんは、脳梗塞、脳出血という病気を知っているでしょうか。脳の血管がつまるものが脳梗塞、脳の血管が破れて出血するものが脳出血です。脳梗塞と脳出血は、どちらも脳の血管のトラブルであること、突然・急激に起きる病気であることなどの共通点があり、まとめて脳卒中と呼びます。
脳卒中は年齢が上がるにつれて起こりやすくなり、70代や80代が一番多いので、概して高齢者の病気と言えます。ただし、くも膜下出血などは50代、60代くらいが多く、中高年くらいの病気です。もちろん、これはあくまで統計上のピーク年齢の話であり、若くして脳卒中になる人もいます。
脳卒中の症状は、手足の麻痺や、ろれつが回らなくなることが有名だと思います。認知症(血管性認知症と言います)になることを知っている人も多いかもしれません。しかし、実はそれだけではありません。精神症状も出現するのです。
多いのは、うつ病です。脳卒中後うつ病と呼ばれたり、英語でPSD(Post-Stroke Depression)などと呼ばれたりします。脳卒中後は誰でもうつ病になる可能性がありますが、ある程度、なりやすい人の特徴が分かっています。脳卒中により重度の麻痺などの重い後遺症が出た人は、その後にうつ病になりやすいのです。また、脳卒中の後に言葉を忘れてしまったり、記憶力が悪くなったり、計算ができなくなったりなどの知的な能力の障害が現れることがあります。これを、認知機能障害とか高次脳機能障害などと呼びますが、脳卒中後にこういった知的な能力の障害が出た場合も、うつ病になりやすいことが分かっています。ちなみに、血管性認知症というのも、脳卒中後の認知機能障害に含まれますので、似たようなものだと思ってください。
後遺症を抱えながら生きていくことは苦しいものなので、気持ちが落ち込んだり、悲しくなったりするのは当然でしょう。これは誰でも心理的に理解できる話だと思います。ただし、こういった心理的な負担、ストレス以外にも、脳卒中による炎症や脳の神経ネットワークの障害といった脳の物理的、生物学的な問題がうつ症状を引き起こすこともあるだろうと考えられています。精神疾患には心理学的要因だけでなく、生物学的要因、社会的要因など様々な要因が関係しますが、脳卒中後のうつ病は生物学的な要因が強い精神疾患なわけです。
脳卒中後にうつ病になってしまうと、その後のリハビリがうまくいかなくなったり、後遺症から回復できなくなったりすることが多いです。当初は脳の病気が精神を悪くしたのですが、その次に、精神状態の悪化が脳や体の症状の回復を妨げるという流れに陥ってしまうのです。こうならないためにも、うつ病のしっかりとした治療が必要です。
脳卒中後のうつ病も、通常のうつ病と同じように治療します。薬物療法は有効で、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が使われます。早くうつ病を治療した方が、リハビリがうまくいきやすく、脳卒中によって失われた機能が回復しやすいと言われています。体の元気を取り戻すためにも、うつ病の早期治療が重要なのです。
また、脳の血管が障害されていても、一見してなんの症状も無いように見えることもあります。特に目立った症状がなくても、MRIやCTという検査機器で脳を見ると、脳の奥の方の白質という部分に異常所見が見つかります。これが脳の血管が障害されているというサインです。これは、とても多くの人に見られる現象で、特に高齢の方に多いです。こうした脳の白質の病変も、うつ病と関連しています。また、白質病変が増えると、認知症にもなりやすくなります。つまり、脳の血管に障害が起きると、手足が動かなくなるなどの目に見える症状がなくても、精神症状や認知症などが起きてくるということですね。
脳卒中後に出現する精神疾患はうつ病だけではありません。妄想性障害といって妄想がずっと続くような病気が出たり、統合失調症という病気にも似た幻覚や妄想が続くような状態になることもあります。
確率でいうと、脳卒中後の妄想や幻覚はそれぞれ5%くらいの出現頻度という統計があります。多くはないけど、決して少なくもない数字です。こうした、幻覚や妄想といった精神症状を精神病症状とまとめて呼びます。精神病症状は、右脳、つまり脳の右側に脳梗塞ないし脳出血が起きた時に出やすいようです。
その他の脳卒中後の精神疾患に、せん妄という病気もあります。これは短期的に認知症のような症状が出たり、興奮や妄想、幻覚といった症状が出たりするものです。症状は多彩であり、時間帯によって変動するのが特徴です。高齢になると、せん妄は起きやすくなります。急激に出現するので、見ている人は「急に人が変わったようだ」と驚くことも少なくありません。
また、てんかんという脳の神経細胞が異常に興奮して痙攣するような病気が脳卒中後に出現することがあります。てんかんは手足が痙攣するものもあれば、気を失うもの、気持ち悪くなるものなど様々なタイプがあります。なかには、幻覚が見えたり、興奮したりといった精神症状が現れるてんかんもあります。脳卒中後の精神症状は、てんかんの可能性も考えないといけません。てんかんは、脳波検査で調べることができます。
以上です。脳の血管に障害が起きると、様々な精神疾患になってしまう可能性があることを、ご理解いただけたでしょうか。特に、高齢者にとっては脳血管障害は身近なものです。高齢になってから急に精神症状が出た場合は、脳の血管に異常がないかチェックすることをお勧めします。
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