メンタルでの休職から復職まで
- 斎藤知之
- 2024年12月4日
- 読了時間: 5分
更新日:2月28日

メンタルの不調、精神疾患のため休職してから復職するまでのステップを段階ごとに解説します。
メンタルでの休職から復職まで
厚労省が発行する「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を見ると、休職から復職(職場復帰)までの流れは以下の4ステップで解説されています。
病気休業開始及び休業中のケア
主治医による職場復帰可能の判断
職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
最終的な職場復帰の決定
当院のやり方を踏まえて、各ステップについて簡単に説明します。
まず、ステップ1で病気休業(自宅療養)が開始されます。これは、職場の就業規則等によりますが、一般的には、休職する人が医療機関に受診して診断書をもらい、それを提出することで始まります。
その後にメンタルクリニックで治療し、症状が落ち着いてから復職を検討する段階に入ります。復職後にまた休職してしまう人も多いので、再発防止について検討することも大事です。
復職が可能と判断するには、症状だけでなく、業務遂行能力の判断が必要になります。ここは誤解の多い所ですが、単に精神的に安定しているというだけではなく、生活リズムが整っているか、通勤や仕事をする体力があるか、集中力が保てるか、昼間の眠気が無いかなどが業務遂行能力の判断ポイントになります。
以下のリハビリや練習により治療や再発予防が行えますし、同時に業務遂行能力の判断も可能になります。参考にしてみてください。
通勤訓練:自宅から職場近くまで通勤する練習をする。
模擬出勤:図書館で本を読んだり、自宅でパソコンを操作したりなどの軽作業を行う。
試し出勤:本来の職場などに一定期間継続して出勤する 。
リハビリ勤務:職場で軽い作業を行う。
ステップ2では、主治医が職場復帰可能と判断を行い、診断書(意見書)を記入します。休職者は診断書を職場に提出します。
ステップ3は、職場との話し合いの段階になります。多くの職場では、産業医が関わり、本当に職場復帰可能か判断します。試し出勤、リハビリ勤務などのリハビリについては産業医面談後に始まる場合もあります。
その後、管理職(上司)らと休職者が話し合い、職場復帰への具体的なプランやスケジュールを決めていきます。この際に、ライフワークバランス、働き方、再発予防などについても話し合ってください。
こうした復職への準備を踏まえて、ステップ4で事業者が職場復帰について最終的な判断を行います。
受け入れ側
以下は、復職する職員を受け入れる職場側(上司/人事担当者側)の対応のモデルを記載します。
まずは、同じ職場で働く方々も、精神疾患について知ることから始めます。
精神疾患を理解するために、生物・心理・社会モデルという考え方があります。これは、精神疾患の原因を生物学的要因、心理学的要因、社会的要因に分けて考える手法です。
例えば、残業が多いとか、職場環境が悪いといったことは社会的要因です。ただ、他にも社会的要因はあります。家庭環境の問題で、夫婦仲が悪いとか、親子関係のトラブルという場合もあるでしょう。介護が関係する可能性もあります。介護負担による離職、いわゆる介護離職は社会問題化しています。
心理学的要因には、本人の価値観や性格的な要因、知的な能力などがあります。心理学的要因は社会的要因に関係が深いため、両者をまとめて心理社会的要因とする言い方もあります。
生物学的要因には、例えば遺伝的、先天的な要因があります。統合失調症や双極性障害、発達障害などは遺伝的、先天的な要因が強い精神疾患です。また、悪性腫瘍・癌、心疾患などの身体疾患は、精神疾患と密接に関係します。ホルモンの病気や免疫の病気、脳の病気などが精神疾患を直接的に引き起こすこともあります。
精神疾患について理解するには、原因を一つに決めつけず広い視野で考えることが大事なのです。
オーストラリアには、”RESPECT Manager Mental Health Training RESPECT Manager Mental Health Training”というマニュアルがあります。これは、会社の上司、管理職などマネージャーレベルの役職の人に向けたプログラムで、休職した職員への対応が書かれています。また、精神疾患について知ること以外にも周囲が関われる方法はあります。
このプログラムでは、職場の上司は、病気について基礎的な説明を受けた後、休職した職員とのコミュニケーションの方法を学びます。コミュニケーションでは7つのポイントを説明するのですが、それぞれの頭文字をとってRESPECTと語呂合わせを作っています。以下に、本文からの抜粋を私の意訳を添えて記載します。
"Regular contact is essential."(定期的な連絡が必要)
"Earlier the better."(連絡を取るなら早くした方が良い)
"Supportive and empathetic communication."(優しく支えるような、かつ、思いやりをもったコミュニケーションを心がける)
"Practical help, not psychotherapy."(専門的な心理カウンセリングじゃなく、現実的な援助が大事)
"Encourage help-seeking."(専門家に相談することを勧める)
"Consider Return to Work options."(職場に復帰するという選択肢について一緒に考える)
"Tell them the door is always open and arrange next contact."(いつでも戻ってきて良いことを伝え、次のアポイントメントを取る)
このRESPECTは、決して専門的ではなく、誰でも可能な方法だと思います。オーストラリアでは、実際にこのプログラムを運用したところ、職場の休職者が減るなどの良い効果が得られたという研究結果があるそうです。
復職は本人だけの努力に任せてもうまくいきません。職場環境の調整や、上司、同僚の理解・サポート・コミュニケーションが必要になります。上記のプログラムを参考に、周囲の方も考えてみてください。
参考文献・サイト: