パニック症(パニック障害)

パニック症(パニック障害)とは、不安症(不安障害)の一種で、パニック発作という症状が特徴の精神疾患です。
目次
パニック症(パニック障害)の症状
パニック発作とは、動悸、発汗、体の震え、息苦しさ、胸の痛み、腹痛、吐き気、めまいなどの様々な体の症状が突然に(発作的に)生じるものです。同時に、強い恐怖感、不安感を覚えます。
パニック発作には、自律神経という神経が関わっています。このため、パニック発作は俗に自律神経失調症と呼ばれることもありますが、自律神経自体の問題ではなく、原因はあくまで不安や恐怖などの精神状態です。
一度パニック発作を起こすと、「またパニック発作が出るのではないか」という不安を抱くことが多くなり、これを予期不安と呼びます。また、パニック発作が出た場所を避けるなどの回避症状もみられます。
パニック症(パニック障害)は、こうしたパニック発作や予期不安、回避的な行動などの症状が少なくとも1ヶ月以上にわたって症状が続く場合に診断します。
また、電車の中や、人混みの中、閉鎖された空間など、パニック発作が起きた特定の場所が怖くなってしまうことがあります。これを広場恐怖と呼びます。閉所恐怖症にも似ている症状で、「逃げられない場所が怖い」「密閉された空間が怖い」と話す方が多いです。パニック障害の方の全員に広場恐怖が出るわけではありませんが、よく見られる症状です。
鑑別診断
動悸や息苦しさなどは身体の病気でも起きますから、こうした身体の病気の鑑別が必要です。医療機関では血液検査などで身体疾患の可能性を除外します。また、パニック発作という症状は他の精神疾患でも見られるため、他の精神疾患も鑑別が必要です。併発した場合はパニック障害とは呼ばず、他の診断名をつけます。例えば、社交不安症の症状の一環としてパニック発作が出現した場合は、社交不安症と診断します。パニック発作はうつ病でもよく見られる症状です。
続いて、パニック症の治療について説明します。パニック症の治療は、まず病気を理解することから始まります。パニック発作は体に症状が出ているため、「自分の体に異常があるのでは?」と不安になることがあります。そうではなくて精神的な症状により体に症状が出ているのだと理解すれば、不安を減らすことができます。
抗うつ薬による治療
パニック症の薬物療法は、抗うつ薬を使います。これはうつ病の治療薬と同じものです。SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という脳内のセロトニンを増やすタイプが最もよく使われますが、SNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という種類の抗うつ薬も有効です。また、少し古いタイプで、三環系抗うつ薬もパニック障害の治療に使われることがあります。三環系抗うつ薬の方がSSRIなどの新規の抗うつ薬よりも副作用が強いため、SSRIが無効な場合などに使われます。
こうした抗うつ薬は少量から始め、数週間かけて増やします。抗うつ薬には即効性が無いのが欠点です。だいたいの目安ですが、毎日続けても効果が出るのは2週間後からで、効果がしっかりと安定してくるのは2ヶ月後くらいです。それまでは効果が無くても毎日使い続けなければなりません。辛抱強く続けていると、だいたい半分以上の方で症状の改善が見られます。3ヶ月ほど使っても効果がない場合は他の抗うつ薬に変更します。
病気が良くなって抗うつ薬を中止する場合は、少しずつ減らす必要があるので注意が必要です。いっきに減らしたり中断したりすると吐き気やめまいなどの離脱症状(中断症候群)が出ますので、急な中断は避けます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬もパニック障害に有効です。ベンゾジアゼピンの良い所は、即効性があることで、飲むと30分から1時間くらいで効いてきます。また、抗うつ薬よりも副作用が少ないので、続けやすいはずです。世界的に有名なコクラン・レビューによる大規模なデータを見ると、治療途中で脱落する確率は、ベンゾジアゼピンの方が抗うつ薬よりも確かに低いという結果が出ています。つまり、簡単に言えば、ベンゾジアゼピンはとても使いやすい薬です。
参考文献:
しかし、ベンゾジアゼピンは利点が多い一方で、毎日連続して1ヶ月以上使用すると依存性が出てくるという欠点があります。そのため、可能なら、ベンゾジアゼピン系は、時々使うだけにするか(頓服)、毎日使う場合でも1ヶ月以内の使用にとどめる方が良いです。
ベンゾジアゼピンを多く使うと、脱抑制といって理性が外れてしまう副作用が出ることがあります。脱抑制は、酔っぱらうのと似ており、自分の衝動が制御できなくなります。このため、衝動的な人は、あまり多くベンゾジアゼピンを使わない方が良いと思います。
その他、ベンゾジアゼピンで眠気や集中力低下、記憶力低下などの副作用があります。これはあくまで一時的なもので、薬を飲んでしばらくすると改善します。こうした副作用のため、車の運転前にベンゾジアゼピンを使うことはできないので、注意してください。
抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用
抗うつ薬の効果発現が遅いという弱点を補うために、最初は抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用するという方法もあります。両者は併用可能な薬です。これなら、投薬後すぐにベンゾジアゼピンが力を発揮して、パニック障害が改善します。抗うつ薬は毎日使い続けていると数週間後に効いてきますから、このタイミングでベンゾジアゼピンを徐々に減らします。これならベンゾジアゼピンの依存性が出る前にベンゾジアゼピンを中止できますし、治療初期から症状を改善させることができるため、メリットは大きいでしょう。
精神療法
専門的に精神療法(心理療法)を受ける場合もあります。パニック症の精神療法は認知行動療法が有名ですが、これは自分の否定的な考え方を見直したり、行動を見直したりする方法です。広場恐怖など苦手な場所がある方は、徐々にその場所に慣れる練習を続けていきます。これは暴露療法と呼ぶこともありますが、認知行動療法の一種です。この場合は、焦らず段階的にハードルを上げていくこと、地道に繰り返すことが大事です。例えば、人混みが苦手な場合は、まず人が少ない場所に行くことを繰り返し、十分に慣れたら、少しだけ混んでいる場所に行くことを繰り返すなど、徐々にステップアップします。
認知行動療法は一人でもできる方法ですが、医師や心理カウンセラーの指示の下に行うことも多いです。
また、リラックスして、自分なりに不安をコントロールすることも大事です。ゆったりとした音楽を聴く、目を閉じて深呼吸をする、瞑想する(マインドフルネス)という方法も心を落ち着かせる効果があります。ぜひお試しください。
参考文献:
DSM-5(米国精神医学会)
Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults: management(NICE: 英国国立医療技術評価機構)