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心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状や治療についてガイドラインを引用しながら説明します。


PTSDとは

心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)は、心的外傷(トラウマ)と呼ばれる強い恐怖体験、非常に辛い体験の後に起きる精神疾患です。トラウマとは、死にそうになる、虐待を受ける、重傷を負う、性的暴力を受けるなど、心を強く傷つけるような強烈な体験を指します。


なお、辛い体験、トラウマの後に、うつ状態やパニック症状が出現し、PTSDの症状が出ない場合もあります。この場合、たとえトラウマが原因でもPTSDと診断せず、うつ病やパニック障害などと診断することがあります。また、PTSDの症状とうつ病の症状が同時にある場合は、PTSDとうつ病の両方の診断が出ることもあります。このように、精神疾患は症状により診断が変わります。


PTSDの症状

PTSDに特徴的な症状は、侵入症状といって過去の辛い記憶を思い出してしまう症状です。頭の中に勝手に入ってくるように、思い出したくなくても記憶が呼び覚まされてしまうため侵入的と表現します。リアルに思い出すことが多いです。このように急に思い出す症状をフラッシュバックとも呼びます。過去の記憶は夜中に悪夢として出てくることもあります。


また、過去の辛い体験を思い出す時に、現実から離れたような感覚に陥ることがあります。これを解離症状と呼びます。


PTSDになると、心的外傷に関係するような事柄を避けるようになります。これを、そのまま回避と呼びます。過去の記憶を連想される場所や人を、意識的に避けることもあれば、無意識のうちに避けてしまうこともあります。


PTSDでは、恐怖罪悪感などの感情から情緒不安定になったり、眠れなくなったりします。自分を傷つけたり、攻撃的になったりなどの行動を取ることもあれば、社会から孤立してしまうこともあります。


PTSDは症状が1ヶ月以上続く時に診断しますが、まだ1ヶ月未満の時は急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)と呼びます。ただ、症状の持続期間が違うだけで、症状はPTSDと同じです。


PTSDになり、自ら命を絶つ方も、残念ながらいらっしゃいます。特に、一度自殺企図したことがある場合、また同様の行動に出やすいので注意が必要です。


自分の命を守るためにも、PTSDの治療が大事です。


PTSDの治療

治療は薬物療法と精神療法があります。


薬物療法は、うつ病や不安障害の治療と同様に、SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を使用します。ベンラファキシン(イフェクサー)などのSNRIというタイプの抗うつ薬も有効です。抗うつ薬は数週間かけてゆっくりと増量します。抗うつ薬の効果が出てくるのには増やしてからさらに数週間かかるため、効果が出てくるまで焦らないことが肝心です。なお、10代から20代前半の若い人に抗うつ薬を使うと自殺のリスクが高まることがあります。このため、若い方で自殺の気持ちや衝動がある方には、抗うつ薬の使用を控えることがあります。


また、抗うつ薬に非定型抗精神病薬を併用する方法も有効です。たとえば、よくリスペリドン(リスパダール)が使われます。非定型抗精神病薬は幻覚や妄想を改善する作用もあり、主に統合失調症の治療に使われますが、PTSDの治療としても有効です。


その他、PTSDでは眠れなくなることも多いため、睡眠薬を使うこともあります。ただし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などは長期に漫然と使い続けると依存性、習慣性が出てくるため、短期間の使用に留めるよう配慮が必要です。


PTSDに特有の精神療法では、眼球運動脱感作療法(EMDR: Eye Movement Desensitisation and Reprocessing)といって、過去の記憶をあえて思い出し、その後に目の運動を行って恐怖感を打ち消すような治療があります(当院では行っていません)。EMDRは過去の辛い記憶を克服する治療ですが、治療過程の中で過去の辛い体験を思い出すため、恐怖感が非常に強まったり情緒不安定になったりする危険性があります。この場合は、無理に行う必要はありません。


PTSDの社会保障

PTSDになった場合も他の精神疾患と同様に、様々な社会保障制度が利用できます。


自立支援医療、精神障害者保健福祉手帳(初診日から6か月以上経過している方)は利用可能ですし、うつ病などを併発して自立した生活が難しくなった場合は障害年金も申請できます。こうした社会保障制度の利用には、医療機関で診察を受けて、専用の診断書を発行してもらう必要があります。


PTSDは精神科の医療機関で対応してもらうことが大事です。治療に抵抗がある方もいると思いますが、ちゃんと良くなるものですから、精神科への受診をおすすめします。


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