心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と治療
更新日:2023年12月19日
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状や治療についてガイドラインを引用しながら説明します。
PTSDとは
心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)は、心的外傷(トラウマ)と呼ばれる強い恐怖体験、非常に辛い体験の後に起きる精神疾患です。トラウマとは、ちょっとしたストレスや嫌な出来事などではなく、死にそうになる、重傷を負う、性的暴力を受けるなど、心を強く傷つけるような強烈な体験を指します。
PTSDの症状
PTSDの主な症状は、侵入症状といって過去の辛い記憶を思い出してしまう症状です。頭の中に勝手に入ってくるように、思い出したくなくても記憶が呼び覚まされてしまうため侵入的と表現します。かなりはっきりと思い出すことが多いです。このように急に思い出す症状をフラッシュバックとも呼びます。
過去の辛い体験を思い出す時に、現実から離れたような感覚に陥ることがあります。これを解離症状と呼びます。
また、過去の記憶は夜中に悪夢として出てくることもあります。
PTSDの患者さんは、心的外傷に関係するような事柄を避けるようになります。これを、そのまま回避と呼びます。過去の記憶を連想される場所や人を、意識的に避けることもあれば、無意識のうちに避けてしまうこともあります。
PTSDでは、恐怖や恥、罪悪感などの感情から情緒不安定になったり、眠れなくなったりします。自分を傷つけたり、攻撃的になったりなどの行動を取ることもあれば、社会から孤立してしまうこともあります。
PTSDは症状が1ヶ月以上続く時に診断しますが、まだ1ヶ月未満の時は急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)と呼びます。ただ、症状の持続期間が違うだけで、症状はPTSDと同じです。
PTSDの治療
治療は精神療法と薬物療法があります。精神療法では、過去の辛い体験にまとを絞った認知行動療法(考え方、捉え方の偏り、歪みを直す治療)や、眼球運動脱感作療法(EMDR: Eye Movement Desensitisation and Reprocessing)といって、過去の記憶をあえて思い出し、その後に目の運動を行って恐怖感を打ち消すような治療があります。ようは過去の辛い記憶を克服する治療ですが、治療過程の中で過去の辛い体験を思い出すため、恐怖感が非常に強まったり情緒不安定になったりする危険性があります。
薬物療法は、うつ病や不安障害の治療と同様に、SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を使用します。抗うつ薬は数週間かけてゆっくりと増量します。抗うつ薬の効果が出てくるのには増やしてからさらに数週間かかるため、効果が出てくるまで焦らないことが肝心です。なお、10代から20代前半の若い人に抗うつ薬を使うと自殺のリスクが高まることがあります。このため、若い方で自殺の気持ちや衝動がある方には、抗うつ薬の使用を控えることがあります。
また、抗うつ薬に非定型抗精神病薬を併用する方法も有効です。非定型抗精神病薬は幻覚や妄想を改善する作用もありますが、近年は更に多くの作用を持つ薬が増えており、うつ病の治療にも使われます。PTSDの治療としても有効です。
その他、PTSDでは眠れなくなることも多いため、睡眠薬を使うこともあります。ただし、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などは長期に使い続けると依存性、習慣性が出てくるため、短期間の使用に留めるよう配慮が必要です。
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